何でも簡単にこなせる、そんな自信に満ち溢れた黄瀬涼太しか私は知らなかった。それ故に、人を見下し、小馬鹿にした言動が滲み出ている彼しか知らなかった。私がお近づきになるなんてとんでもない。彼の周りにはいつも華やかな女の子たちが群がっている。綺麗に化粧を施し、髪も丁寧に巻かれている。そんな彼に近づける訳がない。だけど、彼女たちは気付かないのだろうか。彼は彼を取り巻くあなたたちでさえ、馬鹿にしていることを。あなたたちを、ただの性欲処理だとしか思っていないことを。可哀想。私はこんなにわかってあげているのに。あの女の子たちも、黄瀬くんも、可哀想。

「クソッ」
私はとても驚いていた。黄瀬くんは何でもできる、超人だと思っていた。そのことしか知らなかった。しかし、今、私の目の前にいるのは確かに黄瀬くんなのだけれど、なのだけれど。彼はとても悔しがっている。周りが見えないほどに、自分自身に怒っている。彼が圧倒的に負けたからだ。初めて彼が敵わないと思ったからだ。体育館を出て、彼は体育館裏で怒りを吐き出していた。放課後のこの場所は黄瀬くん御用達で、取り巻きの女の子たちもここは知らない。クソッ、もう一度吐き出し、そこらへんにあるものを蹴飛ばす。
カラカラと缶が私の足元に転がってくる。私の靴にカコンとぶつかったが、黄瀬くんは気付かない。そして去ろうとしていた。今が、チャンスなのかもしれない。きっと他の女の子たちは、黄瀬くんのこんな人間臭いところを知らない。私だけ、私だけ、私だけ、

「きっ、き、せくん、」
「…なんスか」
「あ、の、私、わかって、るから。黄瀬くん、が、悔しい、の。私、完璧じゃな、くても、受け入れて、」
「あのさ」
「あ、なに、えっと、」
「アンタ、誰っスか」
「え」
「わかってる、とか、受け入れる、とか、知らない人間から言われてもキモイし、ウザイ」
「わた、し、同じ、クラス、で」
「あ、そうなんスか?まあアンタのことなんか知っても知らなくても変わんないスけど」

私は黄瀬くんのことを知っている。こんなに人間臭いところも受け入れるし、もっと好きになった。きっと他の女の子たちは幻滅するのに、私は好きになるのよ、黄瀬くん。

「これから、知っていけば、いい」
「はぁ?」
「私のこと知らないなら、私のことを、知ればいい、」
「アンタほんとキモイわ」




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