ぐびぐびと体内にアルコールが流れていくのをただ見つめている。吐き出される言葉は普段の彼女からは想像できない愚痴ばかりだ。人にあまり頼らない、甘えない、そんな彼女が、今自分に弱音を吐いている。多少なりとも優越感に浸っても文句は言われまい。よしよし、背中をさする。言っておくが、俺たちは付き合っていない。彼女の気持ちは知らないが、俺は彼女が好きである。
「はい、もうそこまで。飲み過ぎ」
「真琴くんさぁ、さっきから飲んでないよねぇ、早く飲みなよぉ」
「結構もう飲んだから。送るから、帰ろう?」
他の女の子だったら面倒臭いこの状況も、彼女だったら何となく許せてしまう。女性特有の感触の腕を掴み、店を出る。居酒屋のおじさんが「頑張れよ、兄ちゃん」なんて言っていたけど、まあ、気にしない。気にしない。俺はここから彼女と発展しようなんてあまり考えていない。恥ずかしい話だが、振られてしまった後に、どんな顔で、態度で接せばいいのかわからない。もうこんな風に隣に居られなくなるくらいなら、いっそ、永遠の友達ポジションでいいんじゃないか、
「はい、到着」
「うぅ、水欲しい、」
「はいはい」
「あ、こら寝ない。水、飲むんでしょ」
「ん」
「こら、」
むにゅりと俺の唇に何かが当たる。何か、そんなのとっくにわかりきっている。ただ、俺の気持ちがついていっていないだけなんだ。とろんとした目で、俺の首に手をまわして、再び。室内に漂う男女の空気が脳を溶かしていく。徐々に荒くなる息遣いや行為に身を任せたくなる。俺は何をしているんだ、相手は酔っ払いで、そして俺が大切にしたい人じゃないか。そんなギリギリの理性に、全身を蝕む甘ったるい快楽が襲いかかってくる。
「ねぇ、好きよ、真琴」
どうしたらいいんだ。とろける脳内の甘い誘惑を。