あ、
とこぼれた言葉を彼は気づいてくれた。どうしたんスか、と間抜けな声で尋ねてくるから何だか私は安心した。彼は何も変わってない。

夏、真っ只中に新しいサンダルを買った。もうその時期にサマーセールが行われいて、40%オフでそのサンダルは売られていた。友だちとのウィンドウショッピングのつもりが、見事にそのサンダルに心奪われてしまった。デザインは勿論だけれど、値段も何て魅力的。次の日からはそのサンダルを履いて外に出かけた。バイト、ショッピング、デート。このサンダルと残りの夏を共有してきた。

そこまで履いていたら、当然くたびれてくるわけで、サンダルも。そして今そのくたびれに、私はやっと気がついたのだった。久しぶりの彼とのデート、通り雨に遭ってしまい、全身が濡れてしまった。足のネイルを気にしたところ、サンダルを見つめてこぼれた言葉。ああ、私はこのサンダルをこんなにも愛して、共にしてきたのだなあ。

「あ」
「ん?」
「そのサンダル、随分くたびれてきてるっスね」
「…それ、今私も思っていたの」

うん。お気に入りなの。こんなにくたびれるほどに。でもね、もうこの子とはお別れなのかもしれないね。夜はもうそんなに蒸し暑くなんかないし、朝なんて少し冷えてしまうくらいの風が窓から入ってくるもの。もう、夏じゃないの。

「もうすぐ夏が終わるっスね」
「…ひょっとして、黄瀬くんってエスパー?」
「なにわけわかんないこと言ってんの」

けらけら、眩しい、夏みたいな彼。どうか、色褪せないで。輝いていて。

「オレは変わらないよ」
「…ほんと、気持ち悪いくらいエスパー」
「変わるのはオレに対する呼び方くらいっスかね」
「呼び方」
「そう。いつまで黄瀬くんなんスか」
「あ」

ぼぼっと顔が火照る。涼太、呼んでみると少し声が震えた。変わらないものなんてない。季節、時間、関係。ゆっくりと確実に。でも私はその流れに確実にのっている。そして彼も。ああ、秋がすぐそこだ。




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