私は人からの好意に敏感だと自負している。その好意に気付いた時にはもう行動を始めるのだ。変に期待を持たせることは、本人にとって最も残酷なことだと思うし、何より私自身がそんなことをしたくないのだ。それでも、私に思いを告げる人がいれば、それはそれは丁寧に、一本の髪の毛の隙間もないくらいにお断りをする。いつからかクラスメイトは私から一歩引くようになって、私もそれを受け入れている。


「あ、髪色変えたの」
「うん、よく気付いたね」
「そりゃ週に3回会ってればね」

推薦で大学が決まった私にお母さんから家庭教師をするように頼まれた。生徒は前の家で近くに住んでいた新開悠人くん。今の家は前の家からそんなに離れておらず、たまたまスーパーで出会ったお母さん同士が話に花を咲かせている時に、家庭教師の件が出たそうだ。お給料も貰えるらしく、私はその話に乗ったのだ。

「この髪色、隼人くんに似てる」
「そうかな」
「うん。そっくり。隼人くんみたい」

悠人くんの大きな瞳に私が映る。何だか恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。いつもどんな視線にだってへっちゃらなのに。悠人くんと彼はあまりにも似すぎている。
悠人くんの手が私の髪を撫でる。それは中学生の手で、でも確かに男の手で。撫でられたその髪に、私も彼を思い出した。あの大きな瞳に鼻に厚い唇にくるりとした髪に、男の人の体に、私は恋をしてしまっている。

「どうして目を逸らすの」
「、勉強をはじめよう」
「ねえ」
「しないならもう帰るよ」
「オレじゃ駄目なの」

隼人くんみたいなスプリンターの体つきじゃないけど。隼人くんと同じ顔だよ。悠人くんの家庭教師を引き受けたのは、もしかしたら新開くんに会えるかもしれないから。結局まだ一度も会えていないけれど、悠人くんが私のことを話してくれるかも。そんな薄い希望だけで、この家庭教師を始めた。悠人くんの私への気持ちを知りながら、私は私のために悠人くんを利用し続けていた。今まで通り断ればいいのに、口が開けないのは、もう新開くんへの当てがなくなるから。それとも、

「ねえ。オレを。新開悠人を見てよ」

マスカラで重たい睫毛が自然と閉じた。理由なんてまだ見つかっていないのに。




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