部活を引退し、季節は秋へと変わる。教室も受験モードに変わっていき、オレもその雰囲気に揉まれていた。仲間と集まる時も部活や自転車の話から自然と数学や英語の話になっていく。それを寂しく思う気持ちを秋の冷たい風が加速させていった。

何となく。本当に何となくだ。靖友達の誘いを断った。土曜日の午前中にだけある授業を受けて、ウサ吉に餌をやり、秋空を眺める。ゆるりと雲が流れていく。止まらない。どうしてこんな感傷的なのだろう。自分でもわからない。あの激動の夏が終わったからだろうか。一人だけ、まだその夏に思いを寄せているからだろうか。

帰り道に小さな喫茶店を見つけた。きらびやかでもないし看板メニューを謳っているわけでもない、昔ながらの喫茶店。これも何となく。何となく立ち寄ってみた。鞄の中の参考書がやけに重く感じたし、皆が勉強をしている中で今自分がしていないことに焦りも感じた。

カランカランと期待を裏切らない鐘の音。少ししてから客を迎える声がする。奥から出てきたのは、オレより少し年上の、大学生くらいの女性だった。バイトだろうか、なんてぼんやりと思う。特別愛想がいいわけでもなく、好きな席にどうぞと言われる。奥の席にはスーツを着たおじさんがノートパソコンを開いて作業をしていたので、勉強をしても良い雰囲気だろう。おじさんとは反対側の奥に座った。

メニューに斬新なものはなく、定番のものばかりで、ミルクティーとシフォンケーキを頼んだ。シフォンケーキは程良い甘さでとても美味しかったが、ミルクティーはオレには少し苦かった。参考書を開いてシャーペンを持って勉強を開始する。

驚くほど集中ができた。店内に流れる音楽が良かったのだろうか。それともこの店自体の雰囲気がオレに合っていたのか。時計を見ると二時間は経っていて、残りわずかなミルクティーは冷えきっていた。最後に飲み干してもやっぱり少し苦かった。

「お疲れ様。すごい集中力だね、君」
「こんなに集中できるとは思ってなかったです」
「前からこの店に来てるの」
「いやあ、来たのは初めてかな」
「そう」

お姉さんとの会話はそこで途切れた。学校の女子はひっきりなしに話しかけてくるから少しだけ変な感じだ。

「ケーキ、美味しかったです」
「でしょ。私のお母さんが焼いてるのよ」
「どこのケーキよりもウマイです」
「ふふ、ケーキ、褒めてくれたお礼。」

出されたのはミルクティー。飲むと先ほどとは違ってより甘く優しい味だった。

「ウマ…」
「良かった。君には甘いミルクティーが合うんだね」

優しい笑みにキュンとなる。急に彼女の雰囲気や仕草や声や顔が発見となる。また会いたい。こんな一瞬で思えるなんて。

「また、お姉さんのミルクティー飲みたくなったらどうすればいい」
「うーん、火曜日は絶対にいるよ」
「じゃあまた来週、」
「うん、おいで」

午後三時のミルクティー




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