ホームに列車の到着を告げるアナウンスが響く。オレはそのアナウンスを拾っては彼女にばれないように安堵の息を吐く。横に佇む彼女はショルダーバッグをキャリーバッグの上に載せて、ただ空を見つめていた。

「黄瀬くん、ありがとう」

唐突に自分に向けられた言葉は少し滲んでいたように思えた。しかし、彼女の表情は毅然としていて涙なんて連想すらできない。ありがとう。感謝の言葉なんてオレには勿体なさすぎる。

「いいんスよ。オレが見送りたかっただけだから」
「もう少しで電車来るから大丈夫だよ」
「青峰っちが来るまで待ってるっス」
「そっか。」

彼女も、そしてオレも、知っている。青峰大輝が来ないことを。彼は今バスケの試合中で、その試合終了時刻は彼女の発車の十分後だ。どう頑張っても間に合わないことは明白だからこそ、オレは今ここにいる。伝えるなら今しかないと思ったからだ。

アナウンスが響く。今度は本当に彼女が乗るもの。イスに座っていた人や適当に立っていた人が列を作り出す。彼女の口が開くのが見えた。

「青峰っちには、悪いと思ってるんだけどさ」
「…」
「オレさ、やっぱり諦められないんスわ。アンタのこと」
「うん」
「まだオレ、」

次の瞬間、オレは二度と青峰大輝から彼女を奪えないと悟った。ホームの階段を凄まじい速さで降りてくる色黒の男が目に入ったからだ。試合のこととかどうやって会場からここまで来たのかとか、聞きたいことは山ほどあったけれど、彼女の目の淵から一瞬にして涙があふれ出たのを見れば、いかに、今、オレが邪魔者であるのかがわかった。

「青峰っちが来たからオレは帰るっス」
「黄瀬くん」
「さっき言ったこと冗談だから」
「黄瀬、お前なに言ったんだ」
「心配しなくても次帰ってきた時のデートのお誘いっスよ」

ひらひらと手を振って階段を上がる。数分の別れを二人きりで惜しむべきだと思ったからだ。大好きな彼女が、大好きな友だちと幸せになる。オレが彼女を恋愛的に好きじゃなかったらこんなに喜ばしいことはないのにね。


「あー、好きな人ほしいっス」

空は憎らしいほどの青空だ。



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