「ところで面白い話をしていたな、校長と、院長? ああ園生さんのところか、ふうん、転入生……」
人差し指で薄い唇をなぞるようにして、空中に視線をやる。亮太と三島は、常日頃から挙動不審な自分たちの先輩を、半ば諦めた面もちで見ていた。
正に神出鬼没、こちらが忘れた頃にふらっと後輩の教室へ現れてはかき回して自己完結するこの男、追い返そうにも一応は先輩なので二人は無碍にできず、大抵の場合ご友人が連れ戻しに来てくれるのに助かっている。
初めこそクラスメイトの間にも波紋が広がった彼の登場だが、半年以上経った今となっては彼らの方が亮太たち二人よりも順応していた。
労いの声をかけてくれる友人達にありがたみを感じると共に、時折混じるからかいへは他人事だと思いやがって、と恨めしくなることもある。だがそれを口にすると、皆そろってこう言うのだ。
「ま、しょうがねーよ」
「だって、先輩、だもんなあ」
それは、学校の先輩、という一種の複数形ではない。
ただ彼のことを指して、『先輩』であった。