のるくれ | ナノ



「そうだなあうちの校長先生はなかなかの美声だ。学生時代、演劇を嗜んでいらっしゃったそうだから声も通る……しかし耳がいいからと言って盗み聞きとは、見上げた根性だな全く。それは部で活かせ」

 不意に。

「う」
「げ」
「なんだ三島亮太。苦虫を噛み潰したような顔をして」
 亮太と三島、二人の間の机にゆらりと影がかかった。
「あの、……先輩」
 いつからそこに。
 割入ったその声にひるみ、唾を呑んでしまう亮太に対し、三島はとりあえずと口を開く。唇の端は困惑を隠しきれていない。
 何度も繰り返しているはずなのに、慣れないものであった。初めの頃よりいくらかは回る舌を、なんとか動かす。

「ん? どうした外見陸上部」
「おれと亮太の名前が混ざってます。三島武です。あといつも髪が短いってだけで陸上部って言うのもどうかと思うしえっと、部活は」
「そうか、それは悪かった」

 彼は三島の丁寧な注釈を聞いているのかいないのか、途中で切った。鶏ガラのようでいて妙に肉付きの良い手を机から離し、臼と杵の形で両の手を打つ振りをする。
 気配も匂わせず現れた、亮太と三島の先輩であるこの二年生男子は仕切り直しとばかりに、やけに透る声で言葉を続けた。



mark


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