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手に持っていた資料に目を通してすばらくすると、盛大なため息をつく。

資料の文字は紙を埋め尽くし黒に染まって見えるNO NAMEの視界はユラユラと揺れていた。

それでも目を通そうと一回瞳を閉じて再度瞳を開けた。

だが変わらない黒に染まった視界にもう一度大きなため息をつく。

「もー…ダメです」

諦めたのか資料をバサっとテーブルに置けば、酸素を身体に取り込む。

すると奥から出てきたティファの姿が見えれば、手元に持っていたカップを差し出した。

「はい、コーヒー」

それを受け取ってありがとう、と今にも死にそうな声で言うとティファの頬が緩んだ。

隣のカウンター席に座ったティファは資料を手にすると、

考えるように頬に手をつく。

「それ……さ、私に読めっていう方がバカだよね」

多い文は嫌いだし細かい文字は頭に入らないし、細かい作業は苦手だし。

これを私に頼む方が馬鹿だ。きっとそうだ。

コーヒーを身体に流し込むとユラユラ揺れていた視界が少しずつハッキリしてくる、

私の言葉にティファの小さな笑い声と共に声が放たれる。

「クラウドはNO NAMEに頼みたいのよ」

クラウド、私にこの資料を頼んだ張本人。

頼まれた覚えはないが、今日の朝いきなり部屋に無断で入ってくると同時に指し伸ばされたのが

この資料。これはクラウドの配達の資料で、眠気と共にマヌケな声を出してやった。

そのマヌケで疑問に満ちている声に動じもしないいつものクラウド。

一体私に何をしろっていうの。そんな表情で見上げたつもりだったが、

視界に入った青いクラウドの瞳と目があった瞬間に空気が変わったようなきがした。

なんだか早くこの人の前じゃら消えたい気分だ。そう思って顔を逸らした時

問題の張本人の声が小さくだがはっきりと聞こえた。

「頼む」

今でも鮮明に残る彼の声は頭の中でぐるぐる回っている。

つまりこの溜まった資料を整理してくれそう言っているのだ。

私に頼むなんて本気だろうかこの人。戦闘以外に何も取り柄のないないこの私に。

セブンスへブンでカウンターを務めるだけで精一杯の私に。

嫌だ。そう言いたかったが勝手に伸びた手はしっかりと資料を握っていた。

それに小さく微笑んだクラウドの手は伸びると、髪に柔らかい感覚を感じた。

すっと寝癖で絡まった髪を丁寧にほどくクラウドの動作をゆっくりと見つめていると

また目があった。これから仕事のようで既に着替えていたクラウドの胸板を軽くおして

もう出ていって。そう言おうとする前にクラウドの身体は反転すると部屋を出ていった

そして確かに聞こえた必ず無事に帰る約束言葉を口にすると姿は見えなくなった。

眠気のせいか分からない胸の熱さと不思議な空気にただ瞳を閉じることしかできなかった


そして朝から頑張って今日の夕暮れまで資料を整理していたが、

もう精一杯のようで瞳が揺れ始めた。今はもうコーヒーのおかげでハッキリする視界だが

また資料を手にすればもう寝るしかない。

「……クラウド、忙しいんだ」

「そうね、仕事最近増えてるみたいだし」

最近店にいる時が少ないような気がする。

夜には戻ってくるが、それは私やティファが寝静まった後

いつも音もたてずに帰ってくる。

「心配?」

「え、何が?」

それに呆れたようなため息を零したティファに顔を歪めると、

ぷっと笑われた。ふいにティファは立ち上がるとゆっくりと私の頭を撫でた。

「帰ってきたわよ」

その言葉と同時にティファは店の奥に戻ってしまった。

誰が帰ってきたんだ、と思ったが。店の入口の音がしたので慌てて立ち上がった所

そこに立っていたのは客ではなかった。

黄色い髪で青い瞳の彼。彼が帰ってきたんだ。

顔を上げた彼と目が合うとなんだか心臓が縮まりかけた、

変な感覚に戸惑う自分がいる、変だ。本当に。

「ただいま」

「お、かえりなさい…」

小さく放たれた言葉に自分も小さな声で返してしまった。

なんだろうこのぎこちない感じは。

もっと前は違かった。なんでも言い合ってケンカして、

もっと気軽な感じだったのでいつからこんなかんじになったのだろうか。

「NO NAME」

「え」

いつのまにか近くにきていたクラウドにびっくりしていると、

クラウドの頬が緩んだ。そして伸びる手は私の頬にそっと触れる。

「資料、ありがとな」

「あ、あぁ…うん」

少し微笑んだ彼の手が冷たい、外は寒くてくらい。

その冷たさを確認するように瞳を閉じた私は自分の手をクラウドの手に添えた。

「冷たい」

「もう冬だからな」

冷たいだろ、と言って手を引き抜こうとしたクラウドの手を強く握った。

それに一瞬驚いたのか青い瞳を大きくさせたクラウドをそのまま見つめた。

なんだか変だ、胸が熱い、冷たいこの手を暖かくしたい。

「NO NAME」

その声に我に変えるように瞬きをすると、いつのまにか更にクラウドとの距離は縮まっていた。

なんだか近すぎる距離に顔を下げたとたんに頬にあった手で顎を持ち上げられた。

その時唇に触れた柔らかくて冷たい感覚。

何が起こったのかわからないまま瞳を閉じなかった私はようやく自分の状況を理解する

唇が離れた途端に赤くなっているだろう顔を逸らそうとしたが、

彼の手でそれは止められる。なんでこんなことをしたのか分からない。

ただ前でいつものように青く底光りする瞳を向けられてしまうと、目をそらすことなんかできない。

不意に抱きしめられた身体は暖かかった。ゆっくりと自然に伸びた手は彼の背中に回る。

それと同時に抱きしめる力が強くなった。

「クラウド」

さっきから弾け続けるこの気持ちに少しぐらいは正直になっていいだろうか。

ケンカばかりしていた私たちの距離はどのくらいまで縮まるだろうか

そんなこと関係ない、だたこの溢れて、溢れて止まらない感情を彼にぶつけてみたい。

まだ感じたことのない感情を、今、ここで。





(彼はただ優しくわらっていた)





     



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