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朝日が出るのと同時に甲板に向かった。この時間帯が好きだった、だんだんと明るくなる光は心を満たしてくれるようなそんな気がして。甲板に出ればいつもない後ろ姿があった、だけどそれは一番大事な姿の持ち主で、近づけば驚いたように、でも予想していたようにふにゃりと笑ったNO NAME、その笑顔が心を締め付ける。ちゃんと閉じたはずなのに、箱に収まりきれない感情が見え隠れしている。ゆっくりとうねる海に視線を向ければNO NAMEは楽しそうに声を発した。

「アレンもこの時間帯すきなの?」

「ああ」

やっぱり双子だね、嬉しそうに顔を緩めるそんな姿を大事にしたいのに、できない。双子だから、そんな単語が頭を支配することが嫌いなんだ。捨てきれない感情を隠し通せるのはいつまでだろうか、本当に自分たちは双子なんだろうか。傍にある大事な存在を自分だけのものにできない、ぐるぐると考えは回っているけれど、本当に大切なのは彼女の笑顔であって、それを守るためにはなんだってしてやりたいと思ってしまう。

「寒くないのか」

「ちょっとだけ、手つないでいい?」

承諾することなんかしなくていい、無言で手をさし伸ばせば小さな手が重なった。冷たい体温を奪って暖かさだけ残るように、自分の体温を渡すように握ればNO NAMEは小さくはにかんで海へと視線を向けた。

「父さん、見つかるよね」

「見つける」

それがお前の願いなのならば、それが母さんの望むことなら。ただ、そいつが、父と呼べる誰かが、彼女を傷つけるような存在であったなら、俺はどうするだろうか。そうでなければいい、彼女が笑える相手であってほしい、そして問う。どうして母を捨てたのか、どうして子をおいていったのか。頭に浮かんだ母の姿と、小さい自分。母の手を必死に掴んだ右手に、力を失ったよに下がる左手。押し寄せる感情に瞳を閉じた。俺は本当は父に会いたいのかもしれない、姿を見たいのかもしれない、想像することでしか会えなかった存在と、母を捨てたことで恨むしかできなかった存在を、左手を握りしめて欲しかったんだ。


――アレン、


母さん、俺は強くならなくちゃいけないんだ。大事な人を守れるように、もう失いたくなんかない、大事なんだ、

「アレン?」

瞳を開けば、感じた左手の温もり。瞳を丸くさせてこちらを覗く彼女の姿は、やがてまたふにゃりと笑顔になれば、握っている手を額につけて、瞳を閉じた。

「あったかい、」

鮮やかな感情が頭をよぎったような気がする、左手は冷たくなんかない、温かい。掴んでくれる人がいる。

「そうだな」

彼女の視線の先、想いの先には俺はいない。知っている、あいつがいることを、彼女自身も気づいていないことをわざわざ気づかせる必要もない、できることならずっと忘れていて惜しい、その箱が収まりきれなくて壊れる前に、俺を見て欲しい。叶わない願いを、願ってしまって、それでも仕方ないんだ。









(その感情の本当の名前に)

     



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