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「おい、聞いてんのか」

さっきから声をかけても返事すら帰ってこないNO NAMEの後ろ姿に、眉を寄せれば、どこかどんよりとしたイラつきが押し寄せてくる、確かに自分の声は聞こえているはずなのに反応がない、耳がおかしくなったのか、ペンギンやシャチの声はちゃんと届いているのにそんなことはない。そう、自分だけ。ピリピリとした感情が頭を流れて、彼女の腕を掴めばすぐにNO NAMEは振り向いた。眉を寄せて、瞳を細めて、不愉快そうな表情をしたNO NAMEに一瞬瞳を見開いたけれど、しばらく黙って彼女を見つめていた。彼女もそらすことなく自分を見つめていたが、その瞳はバカみたいに笑っているいつもの瞳とは違う。胸の奥の何かを切られたみたいに、じんじんと痛い。

「お前、」

「離してよ!!!」

ぐん、と胸板を押し返され抵抗されればそれ以上迫るのは無理だと思った、どこか違う雰囲気を纏う彼女の機嫌を損ねないようにするためではなく、胸の奥を痛めたくないだけ。ちくり、ちくりと針を刺されたように痛み続ける、同時に押し寄せるのは瞳を揺らがすことしかできない感情。彼女が小走りで自分から離れていくのを眺めて、近くの壁に寄りかかれば息を吐き出す。
視線を下に下げれば浮かぶのは、先ほどの彼女の表情。態度。全てが焼きついて、瞳を閉じた。嫌な考えが浮かんでくる、そんな考えに捕らわれれば、頭の中で彼女の態度がああなった理由を探す。どうしてあいつのためにこんなに悩まなくちゃならない、

「・・・だせェ」

今まで彼女が怒ることは何度もあったけれど、ここまでの態度をとることはなかった。大抵一日もたたない間に元通りになっていたりすることが多かったからだ。

「船長」

ふと顔をあげれば前にたっていたシャチは何か原因を知っているような顔をしていた、黙っていればシャチの戸惑ったような顔が返ってきて、言いづらそうにゆっくりと口を開く。

「あいつの怒ってる理由、昨日の睡眠邪魔されたから・・・みたいなんですよ」

「・・・は?」

睡眠、邪魔、その単語が理解できない。いや、睡眠といえば、昨日。クルー達と飲んで部屋に帰ったとき、ぐーすか寝ているNO NAMEを起こしてしまったような気がする。それが理由で今まで怒っていたとなると、あいつの頭の中は一体どうゆうことになっているんだ。

「とりあえず、謝ったほうが・・・」

「はぁ・・・そうだな」

これ以上クルーを巻き込んでまで事を大きくする必要はない。頷いてNO NAMEを追いかけ部屋に戻れば、思ったとおりNO NAMEはベットに座っていた。こちらに目線を向けると、すぐに横を向いてこちらを向こうとしない。近づけば、びくりと肩を震わせてた。

「悪かったな」

お前の眠りに対する気持ちがそこまで強かったとは思ってなかったんだ、とそれだけ言うとしばらく黙ったNO NAMEの視線がこちらに向いた。その瞬間、ふんわりと笑った彼女に、押し寄せる甘い感情、ふいに伸ばそうとした手を止めて、瞳を細めた。

「ローが素直に謝るなんて偉いね!許してあげるね!!」

いい気分じゃない、腕を組めば顔を歪めてNO NAMEを見つめた。どうして俺がここまでしなければならないのか、機嫌を直したとたんに感じた安心感がこれほどまでに大きいのか、とっくに支配されそうになっているものがある。違う、そんなんじゃない。揺らぐ瞳を閉じて、開けば近くにあったNO NAMEの不思議そうな顔、額を軽く小突けば小さく笑った。

「単純」

「は、単純?!やっぱ許してあげないから!馬鹿ロー!!」





うるさい、それ以上心を左右されるのは十分だ。












     



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