1/3



右手に眷属器を握りながら、瞳を開けた。人の血の匂いが鼻をついて気持ち悪い。それより虚しさだけが胸をいっぱいにして、それでも俺は選択した。今までの弱い自分を捨てて、強い自分になるために。目の前に立ちはだかる、ずっと昔からの知り合いを見上げれば、ジュダルは笑うことはせずにただ皮肉そうに俺を見つめていた。

「どうしてだよ、NO NAME」

「言っただろ、もう嫌なんだよ」

人が死ぬのが、争いが、戦争が。いがみあって、傷ついて、どうして人は争うのだと考えていた。そしてそれに手を貸している自分自身がとても醜く、そして罪悪感で立っていられなくなる。

「俺は弱い」

「お前はつえェ!!俺が何度もいってんだろうが!」

確かにジュダルのおかげで力を得たし、ジュダルのおかげで強くはなれた。でも俺は弱いんだ、くだらない戦いを止められない弱さがある。脳内をよぎった映像に顔を歪めた。世界が真っ黒になった瞬間の出来事だった、俺の前で倒れていった人々、最後に真っ赤に染まったのは愛していた女だった。彼女の微笑みながら泣くその姿だけが鮮明に残って、絶対に忘れることはないだろう。

「俺たちは、いつでも一緒だっただろ」

力なくジュダルが囁いて、その言葉に小さく笑った。小さい頃から一緒だった俺たちは神官と皇子という立場からでもなく、仲が良かった。ジュダルと戦うのは楽しくて、遊ぶのも楽しかった。彼から戦いの楽しさも知ったし、悲しみも知ったんだ。

「お前には感謝してるんだ、ジュダル」

だからこそ、俺はお前と戦うだろう。ゆっくりと俺を見つめたジュダルの瞳を見つめ返す。

「紅炎がゆるさねェと思うぞ、なによりお前をアテにしてた。俺もだ」

「そうだな」

俺の反応に小さく笑ったジュダルが黒く染まったように見えた。そして戦争時の表情を見せつけて、あざ笑う。後悔する、きっとお前は後悔するとでも言いたげな表情はますます楽しそうに歪んでいく。

「いいぜ!!お前と戦うのも悪くねェ!紅炎に殺されるならいっそここで死ね!!」

その瞬間にジュダルの姿は消えると、目の前に一瞬で移動した。そして彼の持つ細い杖が自分の胸に真っ直ぐ向かう、俺は掴んだ金属器を手放すと、それを受け止めるように瞳を閉じた。本当は、戦う強さもないんだ。彼女が死んでしまってすっかり俺は生きる気力を無くした。ジュダルの目が見開くと、そこから涙がこぼれ落ちたような気がした。そして鋭い痛みが身体を貫けば、もう何も感じなかった。崩れ落ちていく自分を支えたジュダルは、小さくそして掠れた声を放っていた。

「おい、死ぬなよ」

「お前が・・・殺したんだろ」

微笑みながらそう言えばジュダルの瞳は細まったそこからただ流れ落ちる涙をよく知っていた。ジュダルのことはなんでも知ってる、小さい頃から俺の憧れだった。強気なところも、全部、全部、憧れだった。そして視界はせまく、歪んでいく。とじた瞳と同時に、意識がどこかへ飛んでいってしまったように、遠のいていった。






   



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -