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「…うっ、」

瞳を開けば、どうして俺は生きているんだと思う前に胸に流れた鋭い痛みに顔を歪めた。息を吐きだして、落ち着けば周りを眺める。知らない部屋、どこかの宿屋のようだった。右手にぬくもりを感じれば、自分の右手を握りしめて、眠っているよく知っている姿があった。

「紅玉、」

小さく声を出して、瞳を開いた紅玉が自分を目にすると、ポロポロと涙を流して抱きついてきた。

「お兄様、良かった!生きていて!」

「この傷はお前が治したのか、」

「傷を塞いだだけです・・・、」

良かった、良かった。と腕の中で泣く紅玉をゆっくりと眺めながら、紅に染まった窓の外を眺めた。ジュダルはきっと自分が死んだと思っている、俺だってそうだ。死んだと思っていた。

「紅玉、早く国へ帰れ、俺を助けたことを知られればお前の立場が悪くなる」

「・・・どうして、どうしてお兄様を国を出たのですか、ジュダルちゃんとも・・・」

「戦争の意味がわからなくなったからだ」

なぜ争う、なぜ人は死んでいく。戦争をしないと助からない命だってあるのを知っている。だが自分のしていることは、違う。違うんだ。なにもかも見いだせなくなった、あの時から、彼女が死んでしまってから。

「私はお兄様といます」

強い視線を向けた紅玉に瞳を細めて、まだ幼い頃の紅玉を思い出した。泣き虫で、馬鹿だったけれど、決めたことは貫き通す意思の強い持ち主だった。

「俺は・・・お前の気持ちには答えられない」

好きだと、言われたとき。俺には愛しい人がいた、今だってそうだ。彼女が死んだからって、関係ない。俺にはずっと、彼女だけなんだ。紅玉をこれ以上傷付けるのなら、俺と一緒になんかいないほうがいい。

「俺にとってお前は大切な妹なんだ」

ぎゅ、っと唇をつぐんだ紅玉はまたポロポロと涙を流して、小さく囁いた。

「振り向いてくれないことぐらい、わかっています・・・私は一生お兄様の妹止まりだって。でもいいの、それでもいいの」

お兄様が死んでしまうくらいなら、ずっと傍にいたい。愛してくれなくたっていい。

そんな言葉は鼓膜を揺らして、虚しさいっぱいになった。なんで答えてやれない、泣かせたくなんかなにのに、大事で大切な妹を苦しめたくなんかないのに。俺は紅玉を好きになれないんだ。彼女しか愛せないんだ。じゃあなんで俺は生きている、どうして、








(愛してくれなくたって、いいの)



 



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