1/3 「・・・可愛い」 買い物の帰りに可愛らしい店のガラスの向こうに見えたのは、リングだった。シンプルだけど可愛いデザインなリング、欲しかったけれど、もっとお金が貯まってからにしようと思って、買った野菜や果物が入った紙袋を抱えて、坂をゆっくりと上がる。この坂は好きじゃない、息が上がるし疲れる。地面を見つめながら息を吐きだした瞬間身体に衝撃を感じた。誰かと、ぶつかったことを理解して。落ちた紙袋、と同時に顔を上げるとそこには赤い髪の男の人がいた。黒いスーツを着崩して、まとっている。 「ご、ごめんなさいっ」 「気にするな、それよりこれ悪かったぞ、と」 彼は落ちた紙袋を拾い上げて、私に差し出す。最初ちんぴらかと思ってヒヤヒヤしたけれど、以外と優しそうな人だ。お礼を言って受け取ると、目の前の人は私の顔を覗き込んで、不思議そうに囁いた。 「あんた、なんか変わった、と」 「え、えと・・・どこかでお会いしたことありました?」 まるで私を前から知っていたみたいなそんな言葉だったので、必死に記憶の中を探るが全然出てこない。と思っていたが、後ろで束ねた赤い髪が揺れた時、はっと蘇る記憶があった。昔、エアリスを教会で待っていたときに現れた赤い髪の人だ。 「あ、あの時の・・・っ」 何年も前のこと。彼と会話した記憶がある。ザックスと一緒に歩いていた時だって会ったことある。唖然として彼の姿を見上げていると、彼も成長したと実感する。少し幼かったあの頃とは全然違う。 「やっと思い出したのか?俺はあんたのことちゃんと覚えてたぞ、と」 好みだったから忘れるわけないぞ、と。と言った彼に苦笑いする。名前は確かレノと、記憶にある。まだタークスをやっているのだろうか、相変わらず性格に呆れてしまう。 「それにしても美人になったな、と」 「レノさんはかっこよくなりましたね。そうゆうところは変わらないみたいですけど」 小さく笑うと、彼は目を見開いて、また私の顔を覗き込む。そんなに見られると、恥ずかしいので視線をそらせば彼はにやり、と笑ってふーん、と一人で何か考えているようだった。首をかしげていると、腕時計を見た彼は面倒そうに、息を吐き出す 「悪いな、仕事があるんでまたな、と」 頭をぐしゃりと撫でられると、彼は横を通り過ぎて坂を走って下っていった。できればもうお会いしたくない。彼は、嫌というわけじゃないけれど・・・色々と面倒だ。また坂の上を見上げると、ゆっくりと歩みだした。 [しおりを挟む] |