1/2 夏休み、それは私達学生にとっては最高の休み。家路を一緒に歩く、親友の奏子と共に雑誌を読みながら、たわいもない話をする。そんな学生時代、ずっと続いていて欲しいと思いながらも、早く自分ひとりで生きていけるようになりたいとも思っていた。とりあえず私はこれからの夏を楽しくすごしたいのだ。そんなことを思っていたとき、奏子が鞄から取り出した三冊の漫画をこちらに差し出した。 「この前買った漫画、これ泣けた」 「あ、あれね。失恋するやつ、借りる借りる」 それを受け取って鞄の中に入れれば、瞳を輝かせながら、それでもうっとりといった感じで奏子は漫画の内容をしゃべりだした。最後は知っている、失恋して・・・それで、なんだっけ。そもそも失恋してしまう物語なんて、なんて悲しい。っていうか、馬鹿らしい。そんな悲しいことだらけの恋愛なんてしたくない。する方が馬鹿だ。 「どうせ馬鹿とか思ってんでしょうが、それがいいのよ」 「そうですか、そうですか」 軽く頷いておいて、分かれ道で私たちは別れた。そのまま早歩きで家路を急ぐ。見たいドラマが始まってしまう、ちょうど最終回なのに。勢いよく家の扉を開こうとしたが、途中で止まってポストの中身を見る。やっぱあった、白い封筒の送り主には自分の父と母の名前。長期の仕事で外国に行っているから、定期的に手紙が送られてくる。どうせまた同じような内容だ。それを手にしながらも、重い玄関を開けば、靴を脱いでリビングに向かう。リビングの扉を開いて、いつものように鞄を置こうと思っていたらその動きは途中で止まる。 「だ、だれっ」 目の前に立っていた、誰だかわからない青年の姿に目を見開く。真っ先に考えたのは泥棒。今すぐ逃げなければ、と考えたのに身体は動かない。怯えるな!大丈夫・・・後ろの扉から外に飛び出せばいい。それだけだ。青年と目をそらさないようにして、ゆっくりと足を動かした瞬間に男の声が発せられた。 「おい、ここはどこだ」 なんですかその質問は、人の家に不法侵入しておいてそれはないんじゃないでしょうか。黒髪を後ろで束ねて、露出した肌が眩しくて、以外に端麗な顔つき。 これが最初の彼との出会いだった。 ゆっくりと動き出す [しおりを挟む] |