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大きな花火をジュダルにあげて、自分は線香花火で楽しむことにした。火をつけて、小さく光を放ち始めた線香花火に微笑む。

「見ろよ!」

ジュダルの声が聞こえて視線をあげればジュダルは大きな花火の光を盛大に振りまいていた、火事にだけはしないでくれと思いつつ、楽しげな彼の姿に笑みが溢れる。

「あ、終わっちゃった」

小さな光が地面に落ちれば、足元が暗くなってしまった。もうひとつの線香花火に火をつければまた光が溢れ出した。今度はジュダルも目の前でしゃがみこんで同じように私の線香花火を見ていた、ジュダルと私の足元を照らすこの光は小さくて、とてももろい気がした。

「しょっぼい光だな」

「うるさい、それが可愛いの」

納得いかなそうにジュダルは眉を寄せたけれど、変わらずに光を眺めていた。夏は、もうすぐ終わる、この暑さも蝉の声も、感じなくなる。

「そうだ、冬にはスキーしに行こうか、あと雪だるまを作って・・・たくさん、遊ぼうか」

どんなに願っただろうか、この時が来なければいいのにと、どんなに、どんなに願っただろうか。それでもいつか訪れるであろう現実を待っているのは辛かった、苦しかった、だって彼と過ごした毎日はすごく楽しかったから、ありえない未来を想像して私は毎日のように笑った、そしてその分、涙を流したのだ。

「この花火は本当にお前に似てる、小さくて、弱くて」

昼間より少し気温が下がったこの時間帯、周りは真っ暗で、この線香花火の光だけが輝いて見える時間帯、いつかは落ちる光が消えてしまわないように必死に願う。前の前で聞こえるジュダルの声が遠くならないように、聞こえなくならないように、

願う

「泣き虫、」

彼の指が頬に触れると、彼の指先に小さな雫がついた。ポロポロとこぼれ落ちる涙は、まるで蛇口が壊れてしまった水道からこぼれ落ちる水のようだ。治し方も忘れてしまった。小さくて、弱くて、泣き虫。それでもいいよ、どうすることもできない、願うことしかできない私にふさわしい。

「聞いてんのか」

小さく頷くと、彼の手は私の左手に重なった。暖かくて、心地よい感覚。いつから私は彼を好きになったのだろう、いつから叶わない恋をするようになったのだろう。わがままで、人使いがあらくて、意地悪で、でも本当はすごく優しい彼を、好きになったのは、いつだっただろうか。

「ジュダル」

何度も、彼の名前を呼んだ。彼を引き止めたかったのかもしれない、ずっとここにいて欲しいと言えずに、私は彼の名前だけ呼び続ける。夏が過ぎないように、暑くて蝉の声が聞こえる夏が終わらないように

「強くなれよ、NO NAME」

近くで響く彼の言葉に、彼の顔を見れなかった、こぼれ落ちる涙は止まらないまま落ちていく、今は彼の声さえもなくさないように、忘れないように必死なのに、どうすればいいのかわからなくなってしまう。夏の終わりが近づくたびに悟り始めていた現実を受け入れたくなんかない。

「いかな、いで・・・ジュダル」

もうずっと前から言いたかった言葉が吐き出された、同時に唇から感じた柔らかい感触、彼の唇が触れていた、目の前で見える彼の顔に、目を見開いたまま、涙だけがこぼれ落ちる、まるで時間が止まったかのような感覚に陥った、ずっとこのままでもいい、ずっとこうしていたい、ずっと一緒にいたい。彼が掴んだ左手がすごく熱い、そしてゆっくりと離れた彼の唇、それは一瞬のことだった



「じゃあな、」



静かに響いた彼の声に歪んだ視界は彼の口元しかうつさなかった、彼はただ、頬を緩めて穏やかに微笑んでいるように見えた。それが悲しくてたまらない。だんだんと消えていく彼の姿も唇に残った熱も、愛おしくて、悲しい。彼が消えないように手を伸ばしても、宙をあおぐ自分の手に、虚しさだけが残って何もつかめない。


行かないで、ジュダル

ずっと一緒にいて


私を、愛して欲しい。欲望が溢れて、悲しみが体中を支配して。線香花火の光が地面に落ちた。やけにゆっくりと落ちたような気がする、その瞬間ジュダルの姿は完全に見えなくなってしまった。あの日、この家にに彼は現れた。ここはどこだ、と妙なことをぬかしてやって来た彼を見た瞬間から、私は後戻りができなくなっていたのかもしれない。叶わない願い事をするのも、初めてで。どうすればいいのかも、わからなくて。まるであの漫画の最終回のようだった。



夏の終わり

 

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