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「ちょっとジュダル、少しは荷物持ってよ」

「奴隷のくせに逆らってんじゃねぇ」

奴隷じゃないんだけどな。相変わらずその設定うざいな。そう思いつつ彼には逆らえないのでおとなしく買い物袋を両手に歩き出す、前を歩く彼は自由に周りを眺めながら歩く、彼の歩行速度は一定ではないから困る、急に早くなったりゆっくりになったり、基本ゆっくりと歩いているのだが。

「あー腹減った、早く帰ろうぜ」

ジュダルにせがまれてスーパーで買ったお肉で今日はハンバーグを作る、あと花火がしたいと言ったので小さな花火も買った。それを持ってゆっくりと歩いていれば足が何かにつっかかった。小さな石だったか大きな石だったか、どちらでもいいが大きく揺らいだ体は前に倒れる。ああ、後でジュダルに怒られる、肉が地面に落ちたと怒られる、そんなことをぼんやりと考えながら、地面に落ちていったが、それは直前で止まった。体を支えた誰かの手に力が入れば、私を軽々しく持ち上げて元の体制に戻した。

唖然としていれば聞こえたジュダルの不機嫌そうな声に我に帰る、目の前で腕を組みながら私を見下ろす彼を見上げる、彼が助けてくれたのか、珍しい・・・。どうせお肉が無事でよかったとかそうゆうことだろうが。

「ありがとう、ジュダル、お肉は無事だったよ」

その言葉を言い終わらないうちに彼の口が開かれると、静かに言葉が聞こえた。

「気をつけろよ、怪我すんだろーが」

そのまま彼は前を向けば、静かにまた歩き出した。でも今度は私の手を握った、握りながら歩き出した、今度は早すぎなくもない、遅すぎなくもない、私のペースで歩き出した。彼の片方の腕には買い物袋があって、その後ろ姿を見ながらぼんやりと瞳を閉じた。

左手に感じる熱も、胸に感じる暖かさも、全部一緒なんだ、

恋ってもっと楽しいものじゃないの、彼のこと考えるたびにうきうきしたり、ドキドキしたり、嬉しくなったり、なのに、

なのに私はこんなにも悲しくなってしまうのだろうか

いつか訪れるであろう、現実を考えてしまうからだろうか、抗えない現実はこんなにも私の胸を苦しめるのだろうか

「ねえ、ジュダル」

暑さでにじみ出たのは汗じゃない、瞳からこぼれ落ちたのは涙だ。彼の揺れる髪を、大きな背中を見下ろしながら小さく囁いた。彼に届いたかは知らない、でも横を通り過ぎたトラックの音であまりよく聞こえなかったと思う。聞こえなくていいと思う。

「好きだよ」

返事がない彼の背中を見つめたまま、こぼれ落ちた涙を拭うことはしなかった。彼はきっと振り向かないから、そしてそのまま私の元をいつかは去るんだ。
伝わらなくていい、受け止めなくていい、だってきっと彼は笑い飛ばしながら私を見るし、彼が私を好きになってくれることなんてないから、好きになってくれるほどうれしいことはないけれど、私たちに待っているのは幸せなんかじゃない、どれほど心を通わせようが待っているのは悲しみの現実、いつか訪れる、現実。一年後かもしれない、夏休みの最後かもしれない、明日かもしれない。

だから変わらないんだ、私の行く末も、この想いの最後も、あの漫画と同じだ。私は馬鹿なヒロインなんだ。



馬鹿でどうしようもなく愛おしい思い

   

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