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目立っている。間違いなく目立っている。私のせいじゃない、彼に貸した私の服のせいじゃない。彼のせいだ。デパートを歩く私とジュダル、彼は物珍しそうにキョロキョロと店を見たり、人を見たり。そんな彼を見つめるのは、可愛らしい女の子達だ。さっきからかっこいいとか、声かけようかとか聞こえてくる。一緒にいるのが嫌になってくる。

「あそこの店で一人で買ってきてよ。お金渡すから」

顔を歪めた彼はそれを拒否する。荷物持ちだろうが。と勝手に引っ張られるハメになった。彼とこんな目立つところにいる理由は、一時間前。私が彼の服を指摘したときからだった。彼は一着しか持っていないし、ここで生活・・・するのだったら、色々物が必要になってくる。そこでこのデパートに来た。

ぽいぽい、とかごに服を入れていく彼を眺めながら、早く終わらないかと思う。会計を済ましたとき、鳴った携帯の着信音。出てみると、聞こえた声は奏子のものだった。内容は今日一緒に遊べるかどうか、普段なら、いやいつだってこの誘いは断ったことなかったが、今日は断らなければいけない。

『うっそ!どうしたの?!いつも絶対遊ぶのに』

「いや・・・理由が、あって。実は私変な人に捕まってて・・・」

続きを言おうとした瞬間私の頭を誰かが掴んだ。ガシリと効果音がたったようだ、痛い。誰かなんてわかっている、ジュダルだ。彼は無表情でそのまま、私を眺めて小さく笑う。なんて怖い笑顔なんだ、全身から鳥肌がたったような気がした。

『変な人?』

「ううん、勘違いだったみたい!実は神様だったみたい」

そして携帯の電源を切ると、満足そうに彼は私の頭を離してくれた。深呼吸して、自分が生きているか確かめる、なんて怖い人だ。目が怖い。殺されそう。この人と暮らすなんて無理に等しい。逃げたい。怖い。

「ちょっとお手洗い、」

ジュダルを一人で待たせて、トイレまで歩く。三秒以内に帰ってこなかったら殺す、と言われたから帰った頃にはきっと私は死んでいるだろうが、それでも急ぐことはせずトイレに入った。本当にジュダル早く帰ってくれないかな、怖いよ。夏休みが散々だよ、本当に奴隷扱いされてるし。私が違う世界に行ったらあんな態度はできない、まず違う世界に行くことが怖い、最高に怖い。

「・・・あ、」

そうだ、彼はこの世界に来て怖くないのだろうか。寂しくなのだろうか、もしかしたら彼の意地悪な態度は自分の気持ちを隠すためかもしれない、寂しさ、悲しさを押し込めて、彼は笑っているのかもしれない。

「おっせーな、」

トイレから出たあと、ジュダルが待っている場所に向かえば彼は椅子にだるそうに座って、店の品物を眺めていた。対して興味がなさそうに並べられた雑貨を見ながらあくびをしながら、こちらに気がつくと顔を歪めて私を見る。

「早く帰ろうぜ、疲れた」

そう言って前を歩くジュダルはすっかりこの世界に慣れてしまったかのようだったけれど、本当は違うかもしれない。彼の背中を見つめながら、ゆっくりと歩いていたら、次第に遠くなっていく彼の背中。ふいに彼は振り返ると、遅い。と怒られた。

「あの、ジュダル」

「なんだよ」

「この世界に来て寂しくないの?」

ごくり、と息を飲み込んで問いたことだった。彼はしばらく黙っていたが、小さく瞳を細めるとその瞳が水を含んだように光ったのが見えた。目を見開いた瞬間、彼の瞳から溢れ出した涙は頬をつたわって、ゆっくりと流れた。ドクン、と心臓が揺らいで、心の中が締め付けられる。きっと彼は悲しかったんだ、元の世界に戻りたいんだ、私だって、私だって同じような状況だったら・・・すごく悲しいよ。

「・・・なんてな!俺泣き真似得意なんだよ・・・って、は?」

彼の言葉が耳に届く前に気づいたら私の視界は歪んでいた。ポロポロと彼の涙以上にこぼれ落ちていく涙が、止まらなくなっていた。

「なんでお前が泣いてんだよ」

「だ、だって・・・もし私がそうゆう状況になったら、すっごく悲しいだろうな、って・・・」

目を見開いた彼は次第に小さく口を開けると、すっかり涙が止まった瞳を細めて、大きな笑顔を浮かべた。それと同時に聞こえた大きな笑い声は心の底から笑っているような声で、その笑い声に騙されていた自分がバカらしくなってくる。ひどい。

「お前、ばっかじゃねぇの?!」

にやにや、と笑いを抑えられない彼を殴り飛ばしてやりたかったが、逆にぱんちされそうなのでやめた。だけど彼のこんな笑顔は、初めて見たきがする。今までは人を馬鹿にしたような笑顔と、怖い笑顔とかそんぐらいだったけれど。この笑顔は違う。まるで小さな子供のような、幼さの残る笑顔で、でもすごく優しい笑顔だった。胸に熱がこもったような気がして、顔を傾けると、彼は私の頭を小突く。

「いたっ」

「お前、とんだお人好しだな」

俺はこんな状況でも悲しくも寂しくもねえよ。そう言って再び笑った彼の顔を、なんだか見れなかった。







開いた花に気づけずに

   

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