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朦朧とした意識の中、徐々に首に埋まる支葵先輩の髪が見えなくなった。

そして頭の中で深く眠っていたかのような記憶が一気に体を蝕んだ。首に埋まる冷たい牙、全身が震えて、あの日もそうだったと思い出していく。















「ついてこないでよ、」

数メートル後ろを歩く足音、振り返らずに不愉快そうに言い放ったけれど、その足音は方向転換して帰ってはくれない。苛立ちを覚えて、振り返ればズボンのポケットに手を突っ込んだままこちらを眺めている海斗の姿。ずんずん、と近づけば睨みながら顔を見上げる。

「・・・私は、ずっと海斗のことお兄ちゃんだと思ってた」

「そうだな、」

自分より何センチも高い彼から視線を外せば、顔を下げる。だって、信じられなかった。今まで家族だと、兄妹だと思っていた人が、実はそうじゃなかったなんて。簡単には信じられない、逃げ出したくもなる。私はお母さんとお父さんの本当の子供じゃない。違うんだもん。悲しくなったりだって、するよ。地面にこぼれ落ちた涙、頬に触れた海斗の手がゆっくりと頬を撫でた。

「今のお前には、残酷か」

頬を離れた手が私の指先に触れると、温めるように握り締められた。見上げれば、海斗の瞳はしっかりと私を見ていた、それがどうしようもなく苦痛であって、今の私には受け止められそうにはなかった。また小さく瞳を細めて、涙を零すと、海斗は顔を歪めて、背を向けて歩き出した。離れた手からからはもうぬくもりを感じない。辛くて。悲しい。


――海斗、海斗


――ちょっとは静かにしてろよ、もうすぐ帰ってくるから


ずっと一緒に過ごしていたはずの彼が大切だった、家族として。傷つけてしまったことが、すごく辛くて、謝ることも、できない。

そして背後に感じた気配に振り向くと、人気のない道に一人の青年が佇んでいた。息を止めてしまったような気がした、だってあまりにも美しすぎだと感じた。なびく、少し茶色を帯びた髪と白い肌、底光りするような、吸い込まれそうな瞳がこちらを見ている。視線などそらせない。黒いコートを羽織った彼は私を眺めると、コツン、と足音が近づいた。

「どうして、泣いてるの」

優しく、低すぎない彼の声が鼓膜を揺らした時、心臓が高鳴った。そして愛しい家族を思い出して、また涙がこぼれ落ちた。

「家族だった人が、家族じゃなかったから」

彼の手が伸びると、私を引き寄せた。最初は目を見開いていたが、それを望んでいたかのような私に、瞳を閉じる。上の方で聞こえた彼の声がなんだか愛しく思えた

「そっか、」

包み込むように、彼は私の話を聞いてくれた。どうしてこんなに安心するのだろう、怖いくらいの彼の美しさに、見惚れていて、

「僕は君の家族が憎いよ」

そして小さく息を吐き出した。












心音が揺らぐ

   

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