追わないから逃げないで | ナノ



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音をたてて何かが崩れ落ちていく、胸の中で必死に作り上げてきたものが偽りだったかのように、ボロボロと崩れ落ちて、繊細なものが露になっていく、自分を守っていたものがなくなってまた、ただの汚い私に、戻っていく。私は元々こうだったんだ。変わることなんて、できない。それでも必死に生きようとしていた。温かい感覚が左手から離れると、彼の瞳が開く。ぱちり、と目が会った瞬間に彼は小さく息を吐き出して眉を寄せた。殴られる、そう思ったのに彼は温かい手を伸ばして、私を引き寄せた。ジュダルの身体は暖かった、体温は直接伝わって、頬をこぼれ落ちる涙は止まらない。

「なんでだよ」

小さく聞こえた彼の声が耳元で響くと、私は呼吸を繰り返すように涙を落とす。前と同じだ、私をひどく優しく抱きしめて。私にはその意味がわからなくて、どうしてか彼は苦しんでいた。私が泣くことによって彼は苦しんでいる。それが辛くて、どうしようもなくて。

「お前を苦しめてやろうと思った、傷つけてやろうって、ずっと一緒に・・・」

か細く彼の声が響き渡る、搾り取られたような声は胸を刺激して、瞳を細くする、ただ溢れるだけの思いと涙に、どうしようもできなくて。なんて非力なんだろう、と思い知った。

「それで俺は苦しくなくなると思ったんだ、もう・・・こんなもの流さなくていいって思ったんだよ!」

顔を上げると、彼の端麗な顔立ちが見えた。赤い瞳から一筋の涙がこぼれ落ちると、あの時、シンドリアにやってきたジュダルの顔が浮かんだ。涙を流して、私を見つめる苦しげな彼。胸が押しつぶされそうになって、息が止まりそうになったあの時。その時から、私の心の中でだれかの泣き声が聞こえるようになった。決して喚いているわけでもなく、涙をこらえようとして、でもこらえられなくて、必死に食いしばろうとしている、帰らない母親の帰りを待っているような子供のような泣き声。


「お前がいなくなってから毎晩、俺は」

胸が張り裂けそうで、不安で不安で、怖くて。そう言ったジュダルから目をそらせなかった、ポツリ、またポツリと落ちてくる彼の涙を拭うように、私は手を伸ばして彼の頬を撫でる。その手を覆うように彼が上から手を重ねると、また温かい感覚を感じた。

「満たされているはずなのに、満たされない、お前が・・・、」

彼の言いたいことはわかった。彼は、ずっと求めていたんだ。私は、それから逃げて、約束も誓いも捨てて、彼を捨てた。どうして、どうして今更気付くの?謝っても、足りっこない。涙を流すジュダルから視線を空して、瞳を閉じた。



――誓う

――貴方を、愛すと


私が彼を傷つけて、私が彼を苦しめて、私が彼を変えて、

――お前が彼女を縛っていることに気がつかないのか

シンドバット様がジュダルに言った言葉は、本当は私が受け止めなくてはならない言葉だった



私が、彼を縛っていたんだ




   

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