追わないから逃げないで | ナノ



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「早くしろ、クソ女」

重い枷と鎖を引きずりながら、足がフラつくほどの荷物を何度も運ぶ

「…お前、よく見ると可愛い顔してんじゃねーか」

主は若い男だった、その父親に奴隷にされ、様々なことをされてきた。

自分をのぞき込むその男はとてもよく男の父親に似ている、下品な笑いを浮かべる顔つきも、全てが身体を震わせる

「脱げよ、今日は可愛がってやるからさ」

硬い床に押し倒されれば抵抗することなどできない、汚い手が身体中をまさぐって

私自身を黒く染めていく、少し抵抗すれば大きな拳が頬を殴った

何度も、何度も、行為の後は捨てられ、また違う男の手に渡る

触らないで、殴らないで、

お願いだから、

「殺してください…、」

暖かい感覚がした、大きな手が頬を殴るのではなくて、優しく頭をなでるような感覚

妙に安心するその手つき、誰の手?

重たい瞳を開ければ、ぼやけた視界が徐々に戻っていく

「やあ、大丈夫か?」

視界に入ったのは、あの庭園で会ったシンドバット様。どうしてここにいるのだろう

どうして私は眠っていたのだろう、ここは、どこ?

能に酸素が入ると同時に勢いよく起き上がると、周りを見渡す

ここは皇帝国のジュダルの部屋ではない、

「あの…、」

「…色々辛かっただろう、もう君は自由だ」

「自由…?」

私が自由になどなれるはずがない、シンドバット様は、何を言っているの?

「君はジュダルと一緒に暮らしていた娘だろう」

「……はい、」

全てを見透かされているような瞳、この人は知っている

「君はあのままあそこへはいてはならないと思って、私が無理やりここへ連れてきた」

「……、」

言葉が出なかった、ではここは煌帝国ではない、ジュダルも、紅玉様もいない

知らない土地。

「…私を、煌帝国に帰してくださいっ」

頭を過ぎるのはジュダルの姿、それが心を震わせて続ける

「ここにジュダルは来れない、君は自由なんだ。安心していい」

ふわり、とシンドバット様の手が頭を撫でた、その優しい手つきにさっきの感覚を思い出す。

「……私は…自由を求めてしまってもいいのですか」

自由だ、と言われて、喜びたいのに、信用できない心があった

長年、縛られてきた自分の中に大きな闇ができてしまったようだ

ちらつくジュダルの顔と約束が、

胸を縛って、離れてはくれない。


   

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