追わないから逃げないで | ナノ



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赤く晴れ上がった左の頬にNO NAMEは触れた。

ジュダルのいなくなった静かな部屋の中で、ただ怯えることしかできなくなっていた。

NO NAMEの中で疑問は身体の中に広がる。

「(前は、このぐらい平気だったのに…)」

殴られたぐらいで、叩かれたぐらいで、無理やり犯されることだってある。

そんな暗い世界は嫌だった。死にたかった。

やっと逃げ出せたと思ったのに、彼に捕まった。

自分を生かす、と言った彼がひどく残酷にうつる。

「…っ……」

彼に傷つけられたりするのも大丈夫なはずだったのに、なんだか痛い。

胸が、心が痛い。

これは傷つけられたからじゃ、ないのかもしれない。

『私の方がずっと神官様に可愛がってもらってるわ』

その言葉が胸に響いて、全身を麻痺させるみたいに、私をおかしくする。

――なんで…、

涙がポロポロとこぼれ落ちる。

苦しい、辛い、まるで世界が変わってしまったかのように。

死ぬことが怖い、生きることより、死ぬことが怖くなってる。

「そんな…っ…なんで…っ…」

その時、扉が開いた。

入ってきたのは女官ではなくジュダルだった。

NO NAMEはそれに驚いて、目を見開いた。

ジュダルの瞳が泣いているような声を漏らしているNO NAMEを捕らえると、動揺したように表情が変わった。

「おい、お前…どうしたんだよ…?」

今までのジュダルからは想像のできない弱々しい声、

焦っているようで、切ないような声が部屋に響く、同じにNO NAMEの止まらない涙の音も静かに響いている。

「…NO NAMEっ」

ジュダルはしゃがみこんでいるNO NAMEに駆け寄ると、顔をのぞき込んだ。

NO NAMEは顔を見られないように、と蹲って顔を下に下げ手で覆ったが、

ジュダルの力には叶わずNO NAMEは顔を上げさせられた。

「お前、泣いてんのか…?」

NO NAMEの瞳はジュダルの瞳を見ることができずに、そらされる。

「こっちを見ろ…っ…」

ジュダルの声にNO NAMEはゆっくりとジュダルを見つめた、

真の強い瞳がユラユラ揺れていた。

そここから溜めていた涙が収まることなくポロポロとこぼれ落ちていく。

ジュダルの胸が揺れた、鼓動がゆっくりと早くなる。






   

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