追わないから逃げないで | ナノ



2702
2/4


浮遊感を感じながら、私をしっかりと抱きしめるジュダルの身体を強く、強く抱きしめかえした。こぼれ落ちていく涙は空中に舞っていく。彼を見上げれば変わらない表情で、強く私を見つめていた。初めて会ったときのあの強い表情のような、射抜くような視線が私を捉えて離さない。額と額をゆっくりと重ねた彼は、瞳を閉じた。美しかった、この姿が、永遠のようで。それでも落下を続ける私たちが嘘のように、朝日は神々しく私達を照らす。まるで祝福するかのように、


「違う、違う」


彼まで死ぬ必要なんてない。彼は犠牲者。どこまで彼を巻き込むのか、死んでもなお、私は彼を巻き込むのだろうか。なんて・・・、ひどいんだ。世界とは、人生とは、私とは・・・どうしてこんなにも醜く、憎らしい。私が救われる方法を、彼が救われる方法を、全部奪って、地獄へ突き落とすのか。私だけならいい、なぜ彼まで?なぜ彼は、救ってくれない。


思い描いた、彼の笑顔は、血に染まっていく。思い描いた彼の未来は、塗りつぶされていく。全てが赤く、黒く、闇に葬られる。神様、お願いだから、彼を助けて。罪のない彼を、助けて。私の命ならいくらでもあげるから。ここまで神に願いを頼んだのは初めてだった。今まで神など存在しない、願っても叶えてくれないと思っていたから。私など救う対象でもないと。それでも、どうかどうかこれだけは叶えて欲しい。ここまで彼を縛り付けた私を、好きなだけ罰して、彼を助けて。


――お願い、


強く、強く願っても、状況は変わらない。落下を続けて、もうすぐ私たちは死という人生の最後にたどり着く。何度も何度も彼の名前を叫んでも、誰も私たちを助けてはくれない。どうして、泣き叫びたくなる、喚きまわりたい。見えてくる地上の風景に目を閉じたくなる、もうすぐ、もうすぐ、彼はいなくなる







「貴方まで犠牲にするぐらいなら、死にたくなんかないっ!」









ここまで死を後悔するのは初めてだ、
頭の奥底で見えた、彼の姿。涙を流していた彼は小さく、微笑んでいるように見えた。淡い光が彼を照らして、この世のものとは思えないぐらい美しい彼の笑顔に、私は残酷なほどに苦しみを感じるのだ。胸の奥に刃が何本も突き刺さったみたいで、それを抜けば突き刺さっていた傷口から悲しみが漏れ出して、スカスカな心が泣き叫ぶ。そして彼の声が耳元で聞こえるのだ、



安らかで、心地よい、優しい声が、




私を呼んだ








 

[しおりを挟む]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -