追わないから逃げないで | ナノ



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泣き疲れて再び眠ってしまった私達、瞳を開けばまだ彼は隣で眠っているようだった。小さな寝息が聞こえて小さく息を吐き出すと、抱きしめられていた彼の腕からゆっくりと抜け出す。冷たい床に足を下ろせば、ベットに横たわる彼の姿をゆっくりと、眺める。端麗なその寝顔に、唇を釣り上げると、眠る彼の唇にゆっくりと唇を触れさした。ゆっくりと、触れれば。柔らかい感覚を感じた、時間が止まったように、永遠に感じられた。溢れるばかりの思いは止まることを知らない。ずっとこうしていられたら、私は幸せだったのかもれない。

そしてまたゆっくりと離れると、小さな雫が彼の頬に落ちた。幸い彼は目覚めなかったが、そのまま彼に背を向けて、扉を目指した。ガチャリと手をかけると鍵はかかっていなかった。彼はわかっていたのかもしれない。こうなることを、心のどこかで気づいていたんじゃないかと、思う。廊下へと出れば、扉を閉める。彼の姿見えなくなるまでの瞬間が胸が張り裂けそうだった。彼は毎日こんな思いをしていたのかと思うと、乾いた笑みを浮かべた

「・・・今更、」

遅いよ。もう。過ぎたことを考えるのをやめた、という声を聞いたことがあるけれど。それは明日にむかうための人がいう言葉なんだ、歩むために、忘れるべきことは忘れないと、前に進めないから。私もそうだった、でも私は違っていることに気づいた。違う、私は違う。

まだ朝日の登らない暗い廊下を歩んでいると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。高い女の人の声。聞き覚えのある声に、そういえば。紅玉姫様が本国にお帰りになったことを思い出すと、ゆっくりと振り返ると紅玉姫様の姿があった。

「NO NAME!どうしてここへ・・・、」

感づいたように姫様は小さく顔を歪めると私に近づいた。

「ジュダルちゃんね・・・大丈夫なの?」

「はい、大丈夫です」

傷ついた腕を後ろに隠して微笑んで見せたが、姫様は笑顔を浮かべなかった。それに柔らかく笑う。

「姫様、お願いがあるんです」

姫様はゆっくりと頷くと、全て分かっているように歩き出した。私はその後をついていく、廊下の角を曲がる時に見えなくなったジュダル部屋の扉、瞳を一度閉じて、開く。よく知った廊下の道、この角を曲がれば、美しき庭園へと出る。今も変わらないその庭園を歩きながら眺めて、小さく笑った。姫様とよく会話した。白龍皇子と会った。シンドバット様と会えた。色々なことが起こった。ほんとに、色々なことが、起こった。

「姫様、その者は」

「私の客人です。通しなさい。」

二人の警備員が頷いて道を開けると、重たい扉が開いた。まだ暗い、でも私には明るすぎるぐらいだった。姫様に頭を下げると、姫様の手は私の手を掴んだ。

「私、怖いの。貴方にもう会えなくなってしまうみたいで」

涙を溢れさせて、姫様は必死に私の手を掴んだ。どうも私は周りの人を泣かせてしまうみたいで、柔らかく微笑めば姫様のしっかりと姫様の手を握った。

「ありがとうございます、こんな私と話してくれて」

答えは言わなかった。問の答えを言ってしまえば、彼女は絶対に手を離さない。

「NO NAME、私達。友達よ」

「・・・うんっ、」

手を離せば、姫様に背を向けて歩き出した。離れていく王宮、人家を下って、何もない、地上へと出る。ジュダルと私が出会った場所。履いていた靴を脱ぎ捨てて、しっかりと自分の足で地面を歩く、痛みも、苦しみも、全部噛み締めて、彼の苦しみも、全部。私が、背負って、そして先の方で見えてきた朝日が私を照らす。美しい、光だ。下に視線を向けると自分が崖の上にいることに気づく。風が私を煽って、ずっとずっと下にある暗い地面へと導こうとする。

一歩踏み出せば、私の命なんて終わってしまう。でも、全て終わらせられる。この崖、ゆっくりと瞳を閉じた。彼の苦しみも辛さも悲しさも私の記憶全部、背負って死んでしまえたら。私は、幸せなんじゃないだろうか。


自分を照らす朝日に向かって、微笑んで見せた。




 

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