追わないから逃げないで | ナノ



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暗闇の中で誰かが泣いている声がする。目の前に現れた人物に、私は力なく笑った。目の前の人物の纏う服はボロボロで、身体は傷ついていて、黒い瞳を見開いて私を見る、

「・・・どうして、私の前に現れるの」

きっと頭の中で響く声はこの人のもの

「だって私は貴方でしょう」

小さく言った目の前の人物、確かに姿は同じだし、似ている。でも

「私は」

「貴方は私。忘れたわけじゃないよね、私は汚い」

その言葉に眉を寄せた。忘れたわけじゃない、でも忘れたかった。こんな自分とはオサラバして、新しい道を踏み出したかった。目の前の私は、皮肉そうに広角を上げると、恨むような目線を私に向けた。その行為に心臓が痛くなる

「・・・貴方も私を捨てるの」

どうして。どうして。捨てようなんて思ってない、新しい自分になりたかっただけ。それだけ・・・、いや・・・忘れようとしていたんだ。捨てようとしていたんだ。弁解する口も言い訳する言葉も見当たらない、ポタリと汚れた頬に涙を流した目の前の私に目を丸くする。

「私ね、大切な人がいるの」

涙を流しながらも淡々と話す彼女に、胸が痛くなる。瞬きもしないで、涙を止めることもしないで、彼女は唇を動かす。乾いた唇が、必死に何かを叫んでいるような気がして、怖い。

「・・・大切な人・・・・・・?」

「大事なの。私と同じような人、似ている人、約束したの。一緒にいるって、」

胸の中で何かが潰れた音がした。飛びちったその何かが体の中で疼いて。とても苦しい。息ができなくなりそうだ。泣いている彼女はまるで私を恨んでいるようで、私が彼女の人生を奪ったみたいに・・・、

「約束したんだよ」

「・・・う、ん」

「彼はね、私がどうしたら幸せになれるか考えてくれた」



――お前には、それが幸せなのか



頭の中で響く言葉が私の脳内を侵食しはじめる。やめてよ、今更そんなこと言わないで。やっと、自由になれたと思ったの。そして頭の中で思い浮かんだアラジンの姿に瞳を細める、アラジン、アラジン・・・私を助けて。温かい手で私の手を握って欲しい。




「彼が、泣いてるの」






 

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