2003 3/3 「シン、NO NAMEが暗黒大陸に行くそうですよ」 もちろん、モルジアナと一緒に。 後ろで聞こえたジャーファルの言葉に笑う余裕さえない。笑顔を浮かべることも今はできない。頭の中で広がる憎い考えを押しつぶしてしまいたいのに、それができない 「・・・・・・ああ、」 彼女を繋ぎとめておきたいのに、それはできない。わかっている。だがみすみす彼女の命を取らせるようなことはしない。暗黒大陸など、彼女には無理だ、モルジアナのような力を持っていれば、まだ許せたかもしれない。彼女は、弱い。 「だが彼女は、意地でも行くだろうな」 彼女が世界に踏み出すことを夢見ていることは嫌でも理解している。でも世界は甘くはない、小さな命など、すぐに摘み取られてしまう 命だけではない、ジュダルに、捕まるかもしれない 「・・・シン、彼女は行きますよ」 「わかっている、」 ジュダルの腕の中に収まる彼女の体、想像しただけで深い怒りが溢れ出しそうになる。目の前が眩んでしまいそう、霧が自分の身体を侵食して、ジュダルを切り裂きたくてたまらなくなる 「・・・ジュダルの手に渡るのならば」 彼女が再びジュダルの元へ落ちるのならば、彼に抱かれるのならば、いっそここに閉じ込めてしまったほうがまだいい。 いや、いっそこの手で、彼女を殺してしまったら 美しいままの彼女の胸をこの手で貫いて。彼女が最後に息を吐き出すまで、彼女が最後にみたものが俺の姿であるようにと、抱きしめて。彼女がゆっくりと瞳を閉じるときまで、俺は傍にいる。そして赤く彩られた彼女を力の限り抱きしめたら、永遠を感じるだろう。彼女はもう誰のものにもならない、俺以外に誰にも抱かれない。その髪先から指先まで一生、俺のもの。 「ジャーファル、俺の方がよっぽど狂っている」 乾いた笑みが溢れ出す、どうしてそんなこと、一瞬でも本気で思ってしまったのだろう そしたら彼女はもう二度と笑わないじゃないか。俺に微笑むことも、心地よい声を聞くこともない。だが、他のものに奪われるよりはよっぽど、マシだと思ってしまった こんなことを考える自分と、彼女を苦しめるジュダル、どちらが悪になる 「・・・仕方がないですよ」 「仕方がない、か」 だから、どうしても怖くなるんだよ。彼女が旅に出ることが こんな自分がいることが、本当に彼女の首を、絞めてしまいそう [しおりを挟む] |