1902 2/2 「アリババ・・・っ」 魔法をかけられたシンドバット様とは違いアリババは苦しそうに、もがいていた。私のせいだ・・・私をかばったから。冷たくなっていくアリババの手を握りながら、だんだんと不安になっていく胸を抑える。ヤムライハさんも険しそうな顔をしている。怖くなる・・・彼を失いたくなんかない。 近くで誰か死ぬのは、もううんざりだ。 人の死、というものは他人の心も黒く染め上げてしまう。 まだ奴隷であったあの時、私は小さかった。主様は若い男で、私より少し上くらいの数人の女の奴隷と一緒にいた、あの時。あの人たちが私の母親替わりだった。 「NO NAME、ご飯はちゃんと食べなくちゃ」 「食べたくない・・・」 差し出されるご飯はどれもカビの生えたパンの残りかす。あの人は自分の分のパンの腐っていないところをいつも私にくれた。自分の分はちゃんとあるからと 毎晩、入れ替わりであの人達は主様の所で行っては、ボロボロになって帰ってくる。 子供だった私には、まだわからない世界だったけれど、すぐにその世界を知ることになる 弄ばれる人間と呼ばれない奴隷は、主に逆らうことなどできないのだから 「お前も成長したら可愛がってやるよ」 不適に笑う主様が嫌いで仕方なくて、一人、また一人と死んでいったあの人達の死が悲しくてたまらなくて、毎日泣いていた 「主様、どうかこの子だけには手を出さないで」 欲に狂った主様は私にまで手を出すようになった、それを止めたあの人も、あの人も、死んでいって・・・、私の世界は真っ暗だった。 うるさい、と首を切られたあの人の瞳からは涙が浮かんでいるのに、それでも口元は笑っているのだ。ようやく解放されたとでも言ってるかのように、笑っている。生きることにつかれた者の行く先は、死なのだ。 「お願い、アリババ」 そんなのもう感じたくない。見たくない、思いたくない。誰にも、死んでほしくなんかない。 [しおりを挟む] |