金木犀の彼 1/4 「無理無理、ほんとに無理ですよ。」 「ここは誰もが乗り越えなきゃなんない壁なんだよ」 「なんかうまいこと合ってるな、その言葉。」 私は今、 荷物を抱えて壁に向き合っている。 後ろで二人の兄は呆れているし。 私にこの壁にアタックしろというのだ。 ホグワーツ行きの列車に乗るには、 ここを通らないといけないらしい、が。 無理です。こんなに怖いことってありません。 「もう、はやくしろって!俺は先にいくぞー」 「は?え、ちょ…!!!」 いつまでも動かない私にため息をついて次男は先にアタックしてしまった。 見事に通り抜けると、 長男が笑った。 「行けるって、さぁ、行け。」 「行けない、やだやだやだ。」 「あっそ。じゃあ、俺も先行っちゃうからね」 「えええェ!!!妹見捨てんなよ!!!おまっ、本当に兄貴か?!ねぇ!ちょっと!」 そんな私のいうことも無視して、 先にアタックしてしまった兄。 残された私は、脱力感でいっぱいになっていた。 「あぁ…最悪、本当に一人にするなんて。」 本当に私の事嫌いだな、あいつら。 どうるする、 行く? 行くか? いけないって。 行けてたら、あんな底意地悪い兄より早く行ってるよ。 「どうかした?」 「!」 ふいに後ろから誰かに話しかけられた。 びっくりして、振り向くとそこには美少年と呼ばれる分類の男の子が立っていた。 綺麗に整った顔で、不思議そうに見られる。 「い、いえっ…その…。」 「あぁ、この壁だね。」 新入生か、 そう言って苦笑する通称美男子君は私の隣までやってきた。 私よりはるかに背の高い彼は、優しげな表情で私を見た。 「大丈夫、初めは怖いかもしれないけど、痛くもないし、心配しないで」 目元が細まって、頬が上がった。 これがこの人の笑顔。 すごい、美少年が笑うとすごくかっこいいんだ。 なんだか一人納得してしまった私は、 はっと我に返ると、大きく頷く。 「…が、頑張ります。」 深呼吸をして、バッと駆け出した。 うわ!ぶつかるー!!!! そう思ったが、 痛みはなかった。 「!」 いつのまにか視界が変わっていて、 横には人盛りと真紅の列車があった。 「これがホグワーツ行きの!」 「そうだよ、ね、なんにも心配なかったでしょ」 いつのまにか後ろにいた美少年はそう言って、 また笑う。 「はい!ありがとうございます!」 「どういたしまして、じゃあね」 手を軽く振って去って行った美少年を見送ると、 私も列車に乗り込んだ。 「お、やっと来た。」 兄が待っていたコンパートメントの扉を開けると、呆れた顔で見られた。 「ま、一人で来られたんだしいいだろ」 「ふん!意地悪な兄と違って美少年に助けてもらったんです!!」 「「は?」」 唖然とした表情でこちらを見る兄を無視して、 次男の隣に座ると、 次男の顔がぐっと近づいた。 「誰だよ!美少年って!!」 「は…?」 「どこの寮?!ハッフルパフ?!」 「し、しらないって…」 いきなり大声で次男から聞かれて、 こっちもびっくりする。 「まぁまぁ落ち着け。」 長男が苦笑いして次男を落ち着かせると、 次男もため息をついた。 「俺より美形なのかなぁ」 「うっざ。」 そういえばあの美少年から、 少しだけあの香りがしたような気がする。 [しおりを挟む] |