壊したくて泣きたくて | ナノ

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「どうしても、扉は開けてくんないの?」

「うん」

「顔ぐらい見せてくれよ」

扉越しに聞こえるのは、懐かしい秋真の声。先週から届いていたメールの宛先は彼のもの。会って話したい。返事はしなかった、今更どうして。なんてあの時の彼の台詞を思うことになるなんて。突然家に訪れた秋真、扉は開けない。

「・・・心配、してたんだよ」

「学校にはもう行ってるよ」

「それでも、結構休んでいたから」

小さく息を吐いて、扉越しの彼の顔を想像する。今、どんな顔してるかな。新しい彼女はできたかな。幸せかな。どうしてここへ来たの。そんな疑問に満ちた感情は彼の言葉にかき消される。

「やり直したいんだ・・・ずっと考えてた、あの時から」

「うん」

あの時、とは私が秋真の元へ走っていった、あの時。自分の想いを告げて、お別れをした。秋真の最後の言葉は聞こえないふりをして帰った。確かに秋真のことを好きだった自分がいたけど、やり直そう。という気持ちは私にはなかったから

「お前のこと、好きなんだ」

「秋真」

秋真に答えられる気持ちはもう持っていない。あの時の自分はいっぱい秋真にひどいことをして、たくさん傷つけてきたはずだから。自分は秋真には釣り合っていないのだ、友達以上の関係に、もうなれない。秋真を好きだった自分は、いない。

「ごめん、ごめんね」

扉越しで、この気持ちが秋真に届くだろうか。ありがとう、とはもう言えない。秋真にできるのは謝罪の気持ち、こんな自分でごめん。あの時お礼を言ったのは、確かな気持ちがあったからだよ。これ以上秋真が自分を想わなくていいように、さよなら、が必要なんだよ。

「・・・・・・泣いてるのか?」

しばらく沈黙が続いた中、秋真の声が聞こえた。目を見開くと、ポタリと腕に落ちた小さな雫が身体の仲をかき乱す。なんで、涙。もう散々泣いたじゃないか。強くなろうって決めたのに。本当は、さよならが必要なのは自分の方で、体中を廻っているこの記憶を手放さなければいけないのは私の方で。あの時、兄が抱きしめてくれたあの時。彼の記憶とお別れしようって決めたのに。やっぱり涙は耐えてはくれないようで、もう泣くことに慣れてしまったようで。

「どうして」

秋真の声色が低くなる。秋真は分かっているようだ、その涙は自分のせいではないと。自分以外の誰かが関わっていると、ずっと前からわかっていたみたいな、そんな声色。小さく息を吸い込んでゆっくりと吐き出せば、少し高い声で、笑ってみせる

「泣いてないよ」

秋真には顔が見えてない。私も秋真の顔が見えない。だから大丈夫、と思った瞬間。秋真の大きな声が響く

「なんで泣いてる?!苦しかったら、相談くらいなんでものってやる!!」

「・・・、」

少し、唖然となった。兄と同じようなことを言う秋真に、本当の笑みが溢れる。どうして、どうして私の周りにいる人はこんなにも優しいのだろうか。今まで自分の思っていた、くだらない世界はどこかへ消えてしまったようだ。小さなことで傷ついていた私は、どこへいったのだろう。まだ消えてはいないけれど、心の隅で笑っているけれど。あの時の私ではなくなっていることは確信ができた

「大丈夫、もうね、終わりにしようと思うから」

本当の終わりに。もう気づかなくちゃいけないのはわかっているから。

「心配しないで」












   

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