壊したくて泣きたくて | ナノ
13022/2
「美味しい・・・」
「ちゃんと全部食べるんだよ?」
「うん」
泣き疲れて落ち着いた私に無理やりにでも何か食べさせると、言った美希さんに少し笑顔が溢れた
目の前に、ある温かいスープと食事を喉に通せば、やはり久しぶりにちゃんとした食事を味わった気分になった
「それで・・・クラウド君は、どこにいるかわからないのよね」
「うん、でも絶対会いに行けない場所」
異世界から来た彼とは話さなかったが、クラウドのことは兄から聞いていたらしくて、
自分の思いを美希さんに全て話した。ただ黙って聞いてくれる美希さんは、
本当にありがたい。
「お兄ちゃんには・・・・・・」
「うん、言わないけど・・・NO NAMEちゃんの安否だけは伝えさせてもらうね」
それは、仕方ないと頷くと。美希さんは携帯を開く。あれからずっと電話をくれた兄だったが
それには一切出ず、心配して家に訪れた兄も家には入れなかった。
そんな状態がずっと続いて、奥さんの美希さんも一緒に来た時は少し驚いた。
兄は入れなかったけれど、美希さんを追い返すわけにはいかなくて、美希さんだけ家に入れた。
美希さんが家に入ったのは昨日、それまで何も食べないでずっと口を開かなかった私に美希さんはすごく心配してくれた・・・
でも、どうしたらいいのか、わからない。
「あ、廉君?うん、え?!なんで、帰ってないの?!」
その言葉に目を見開いた。昨日美希さんと兄が訪れて、兄は追い返したはずなのに、帰っていない。
近くのホテルにでも止まっているんだろうか、と美希さんを見上げたら、首を振った美希さん、椅子から立ち上がった。
「ずっと、玄関の前にいるって・・・」
走り出した先は玄関で、ドアを勢い良く開けば、伸びてきた腕に思わず瞳を閉じる
背中に回った腕、兄に強く抱きしめられていると気づく。離してもらおうと、胸板を押し返せば
ぎゅう、と力のこもった腕が強くなる。小さく聞こえたかすれた兄の声が、鼓膜を揺らして
痛いくらいに涙を流した瞳からまた、涙がこぼれ落ちた
「お前・・・どうしたんだよ・・・ッ?」
やめて。そんなこと言わないで。また泣いてしまう
鮮明に残った彼の姿が、ソファに座って、小さく笑う彼の姿が、約束をした彼の言葉が
また私の心を揺らして、止めてはくれない
悲しくて、悲しすぎて、どうにか、なってしまいそうだ
「俺にも言えないことなのかよ・・・?」
泣きそうな、兄の声に、息を吸い込んだ
「う、あ・・・ぁ・・・っ・・・私、どうしたらいいのかわかんない・・・・・・!」
「家族だろうが!!頼れ!!くそ・・・っ・・・なんでそんなに泣いてるんだよ」
泣き崩れる私を支えながら兄は、強く抱きしめてくれた
後ろから美希さんも抱きしめてくれて、胸がいっぱいになる
昨日からずっと家の前で待っていてくれた兄も、私を心配してくれた美希さんも
みんなに迷惑かけた
もう、いい加減。気づいたほうがいいのかもしれない。
あの時の彼の約束は、きっとお別れの、言葉だったんだ
彼の姿も、声も、胸を締め付ける笑顔も、どうしようもないこの想いも
全部、全部、忘れなくてはならない
前に、進まなきゃいけない
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