壊したくて泣きたくて | ナノ

0103
3/4


「じゃあ行くわ」

「気を付けて、」

「おう、じゃな」

私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴ながらに撫でたのはやさしい手。

だけど、それはもう遠く離れて見えないところにある姿。

扉を締めて見えなくなった兄の姿に小さく笑った。

それはひどく悲劇的な笑みを含む表情。

もっと、もっと心の底から笑顔になれないかな。

ただでさえ幸せな兄に心配はかけたくないのに。

嘘だ、心配してほしい、のかな。

広く感じるようになったこの家も、何もかも、何かが足りないんだ。

夕飯を食べよう、そう思ってテーブルの上に用意してくれた兄が作った食事に手を出そうとした時。

二階の寝室から響いた音。

それは何か重いものが落ちてくるような、音。

そして恐怖で満たされていく胸から背筋にかけて、電流が走った。

「泥棒…?なに…?」

いざとなると身体は動かなくなったが、息を飲んで呼吸をした。

そして二階に進む足、慎重にゆっくりと扉を少しだけ開けようとした時。

視界は揺らいだ。

バン、っと音を立てて自分の力以外で開いた扉から、突き出たものは

自分の瞳では早すぎて確認することができなかった。

突き出たものは自分の瞳のすぐ前でとまると、一気に空気が凍りついたようだった。

そしてそれを人を殺すことができる大剣だと気づくのに時間はかからなかった。

「っ…あ、」

「騒ぐな」

声が響いた。

それは高すぎず低すぎもない胸に響く声。

大剣を掴む腕の先に見える姿に思わず息をのんだ。

「(誰、このカッコイイ人……っ…)」

そこには金髪で外国人のような青年がいた。

「おい、ここはどこだ。答えろ」

妙な質問に思わず頭を傾げたくなったが、今はそんな状況じゃない。

私に突き出されている大剣は一瞬で自分を切り裂いてしまうことができるかのように

ギリギリと動いている。

おかしな質問だったが、正直に答えようと口を開いた。

「こ…ここは私の家で、私の部屋です」

それに顔を歪めた青年。

なぜこの青年はこんな大剣を持ってここにいるのだろうか。

その時ひとつの考えが頭をよぎった。

「(もしかしたらこの人、異世界の人だったり…。)」

今日は少し頭が変に回るようだ。

おかしなことを考えてしまう、どうしたってそれしか思い浮かばない。

「俺は、教会にいたはずだ…」

「教会…?この当たりにはありませんけど…」

「正直に答えろ。わかってるよな」

カッコイイのに怖いことを言うこの青年にまた息をのんだ。

自分は正直なことしか言っていない。

「私嘘なんかついてません…、その、可能性としてはここは貴方がいた世界じゃないかと思われます。」

この世界に人に大剣を突き出してここはどこだか聞く人はいない。

きっと不思議なことが起こっているのだ。

「……ここにモンスターはいるか」

「い、いるわけないじゃないですかっ!!!!」

それに瞳を見開いた彼。

するとゆっくりと大剣は下ろされた。

「そこの窓から、外を見た。見たことのない風景だった。」

それは私の言葉を信じてくれる、そうゆうことだろうか。

「なぜ俺が異世界の者だとわかる」

「…この世界に平気で大剣を人に向けるような人は…いません…それに刀とかも持ってる人、いないです…」

だから闘う必要もないし、

モンスターもいない。

でも彼の世界にはいたことになる、モンスターが。

「そうか、すまなかった」

「え、いやっ…大丈夫です」

青い瞳に思わずドキリと心臓がはねたが、なんだか直視できない青年の顔。

ゆっくりと下と向くと、彼は大剣を収めた。


 

[しおりを挟む]
  back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -