壊したくて泣きたくて | ナノ

0702
2/3



携帯の着信音が鳴る、お風呂から上がりたての火照る手でそれをNO NAMEはとると、

耳元に当てた。

画面に映し出された名前に自然と頬が緩んだ。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

『いや、お前は大丈夫かな、って』

「大丈夫だよ、美希さんは元気?」

『美希は元気だよ』

「なら私のことは気にしないで」

『そうはいかないよ、たった一人の妹だからな』

NO NAMEの表情は緩むと、笑みを浮かべる。

たった一人の妹、NO NAMEにとってもたった一人の兄だった。

その大切な存在、だからこそ心配などかけたくない。

だからこそ、笑っていて欲しい。

「わかってるよ、ありがとう」

『うんじゃあ、何かあったら電話しろよ…すぐに行くから』

「はいはい」

携帯を閉じると、傍に置いてあったミルクティーを口に運ぶ。

甘い香りが口の中に広がって、心を満たす。

クラウドも寝静まった時間帯だった。

NO NAMEも普段夜遅くまで起きている性格を知っていて兄はこの時間帯に電話をかけてきた。

NO NAMEももう寝ようと、自分の部屋に向かおうとした時、クラウドの声が聞こえた。

叫ぶ声を押し殺すような、小さな、小さな声。

昔は兄のものであった部屋にクラウドはいる、その扉の向こうから聞こえた声。

「…クラウド?」

扉を開けて、クラウドの姿を確認しようと目線を向けたが、クラウドはベットの上で瞳を閉じていた。

近づけば、時々顔を歪ませて苦しそうに息を吐く。

「……エアリス…、」

「!」

吐かれた名前、ひどく切なくて、苦しそうな声。

「…クラウド」

きっと彼は苦しんでいる、何かを抱えて、一人で苦しんでいる。

「……どうしてだろう」

でも、今は自分の心のほうが重い、

晴れたはずの心の中に、また何かが重なってずしりと重くなる。


“エアリス…”


その名前をが頭の中で消えなくて、ひどく泣きたい気持ちになった。

きっと泣きたいのはクラウドなんだ。

苦しくて、悲しいはずなんだ。


「…なのに、なんで私が、泣くの…?」


NO NAMEの頬を濡らした涙は床にこぼれ落ちた。



 

[しおりを挟む]
  back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -