傍に | ナノ

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ポツポツと雨が降り始めた空を見上げれば曇天の空が浮かんでいた。

鉛色の思い出が頭の中でフラッシュバックし始める、浮かぶのは赤く染まる美しい緑色の髪

溜息を吐いて木に寄りかかりながら瞳を閉じた。

疼くように痛くなる胸の傷、雨の日は必ず痛みを感じていたが、違う。また何かを知らせるような痛みに、顔を歪める

「・・・・・・なんだよ」

何か言いたいのか、この傷は。俺を笑っているのか、あの少女に心を許した自分を嘲笑っているのか。




あの日、彼女を探し出して自分は目の前に降り立った。

だが何も言わず横を通りすぎた彼女を不思議に思いながらも、ミナトが探していたことを告げる。待っていたのは、あの笑顔だった。

俺はまた、ふぬけた笑顔を、緑色の輝く瞳を向けてくれることを待っていたのかもしれない。

でも帰ってきたのは力なく、こちらを見つめる彼女の姿。

心臓が揺らいだ、今すぐ彼女の両肩を掴んでどうした、と揺さぶってやりたい衝動にかられたが、それはミナトの姿が脳内に浮かんでその行動を停止させる

「なんかあったのか」

自分でも情けなくなるような問いだった、彼女は答えてくれるだろうか。

瞳を一度閉じて、開いた瞬間胸に痛みを感じた。真っ赤に染まった自分の身体はゆっくりと地面に倒れる。

(何があったんだ)

と考える暇もなく、息をすることも苦しかった。彼女は無事なのか、と顔を上げた瞬間、心臓が止まるような感覚を自分を襲う。

緑色の髪は赤い血で塗りつぶされて、彼女の腕は血に染まって。

なんで、どうして・・・

声を出したはずなのに声は出ずにかすんだ息だけが小さく体から出て行く

うつろになる意識の中で、自分は変な気持ちにばかり覆われていた

そして降ってくる雨と共にゆっくりと意識を手放した





あれから何年もたった、あの日から里からいなくなった彼女の記憶は消せるわけでもなく、この胸の傷に残っている

「・・・・・・どうしてだろうな」

なんで自分は彼女に気を許したのだろうか。どうしてだろうか。この自分が。他人を簡単には許さない、自分が。

疑問で、疑問で仕方なくて、時が過ぎた。

降り止まない雨を見上げて、後ろにやってきた気配にぴくりと肩を揺らす。

「なんだ、帰ってたのかミナト」

「・・・ああ、さっきね」

本当にすぐに帰ってきたのだろう、後ろにいるミナトだが、息が荒い、見なくても肩が上下しているであろうミナトの姿が浮かんでくる。

「どうした、火影様への報告はまだだろ」

なんで最初に自分の元へ来た。それが聞きたかった。

こいつは完璧な人間だ。そんなこと怠るはずもない。

そして静かに響いたミナトの声は、鼓膜をゆっくりと揺らした。

「NO NAMEと会ったよ」

心臓が止まったように、動けなくなる。だがすぐに大きく脈打つ傷に思わず顔を歪めた

その知らない名前が、何を表しているなんて問題は簡単すぎて

「・・・任務で彼女に会ったんだよ」

ゆっくりと振り返ってミナトを見れば、やり切れなさそうな顔をしていた

それに小さく息を吐けば傷口の上の服をくしゃりと掴む

「・・・・・・どうしてだろうな」

憎いはずの彼女、自分を傷つけたはずの彼女。なのに今更、彼女の笑顔が忘れられないのはなぜだろう。






どうして、曇天の空のあの時ぼやけて見えた緑色の瞳から流れ落ちる涙を拭ってあげれなかったのだろうと、思ってしまうのだろう




本当は分かっている

胸を締め付ける想いの名前に、


だからこそ、認められないんだよ

     

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