傍に | ナノ
01022/3
「は…っ…」
目が覚めたら、自分の手が真っ赤に染まっていた、
小さく息を漏らして、自分のものか、他人のものか、わからなくなった血を見つめる。
涙がでそうになる。
私はこんなこと望んでいない、でも、それも身体は言うことを聞かない。
――どうして、どうして…
もう、逃げられない。
記憶がないままのほうが、楽だった。
こんな現実が自分を支配するのならば、自分が誰だかわからなくなったほうがいい。
その方が、きっといい。
「…、」
こんな毎日に慣れたはずなのに、私は逃げ出した。
自由を夢見て、自分の罪を知らずに、自らの記憶を捨てて
そこで得たものが、今はどうしようもなく辛くて、苦しい。
「(もう、嫌だ)」
明るい世界が怖い、
自分はその世界を真っ赤に染め上げてしまう、
自分を囲むように倒れていた人間達のように、みんな死ぬ。
私が死ねたらいいのに、何度もそう思ったが、叶わず夢だった。
三弥はそんなこと許しはしない、
「!」
人の気配に耳を澄ませた、木々達の後ろの方から数人こちらへやってくる。
顔を歪めて、地面を蹴る、もう人間と出会わないように、
赤いものを見ないように。
「…誰かいたぞ!仲間が倒れている!」
「追います」
追っ手がかかった、数人後ろを追ってくる。
「ぐ…っ…ふ、」
頭痛がする、頭を鈍器で叩かれたかのように痛みに小さく声を漏らした瞬間、
何かが途切れたような気がした。
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