傍に | ナノ
03022/3
明るいこの里がひどく残酷に見える。
笑う人々の声が絶望を蘇らせる。
なんて、なんて悪い夢だろうか。
「また散歩かよ」
歩む私を止めるかのように前に降り立ったのはシカクだった。
瞳がシカクを捕らえると、言葉を発することもなく横を通り過ぎた。
それを横目で見ていたシカクが小さく口を開いた。
「ミナトが、探してたぞ」
頭によぎったのはあの優しい笑顔の持ち主。
だが、それはすぐに赤に塗りつぶされた、ゆっくりと瞳を細めると
息を吸った。
「なんかあったのか?」
シカクの声は優しかったような気がする。
人をからかうような声ではなくて、もっと何かを感じるような声で、
私に問いかける、
それがどうしようもなく胸を苦しめた。
同時に私の黒を読み覚ました。
それは一瞬のことで、自分も理解できていなかった。
ただ、瞳を開ければ前の前で横たわるシカクがいて。
苦しそうに、小さな叫びを上げているのだ、
彼の身体は真っ赤に染まっていて、それを認識した瞬間に
身体の中の糸が切れる音がした。
「ごめんっ…ごめんなさいっ…シカク…っ、ごめんっ」
溢れる、涙が溢れるの、
だって私の両手は赤く染まっていたから、私の頬には彼の血がついていたから。
「…っ、」
瞳を開いて私を見上げた彼の視線がどうしようもなく痛くて、
見てはいられなかった。
だから、私はここにはいてはいけないのだ。
あの白い手が赤く染まるように、私の手も赤く染まるのだ。
「……許して、シカク…っ、」
私は彼から逃げた。
走る足は里の外へと向かっていた、
溢れる涙は、私を元に引きずり込む。
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