傍に | ナノ
02033/3
ミナトと二人で散歩をしている中、特に話はしなかったが、
気まずくはならなかった。無言でいてもなんだか安心できる空気だったから。
だが子供の泣く声で顔を上げると、目の前の道の真ん中で大声で泣き叫ぶ男の子がいた。
「大丈夫?!」
ミナトはすぐに駆け寄り、私もそれについていったが、瞳を見開く。
男の子の瞳からは大粒の涙があふれ出ていて、その原因はすぐに分かった。
抱える右足の膝から流れ出る赤いもの。血、転んだようだった。
「すぐ手当てしてあげるから、泣かない」
手早く手当てをするミナトだっだが、地面にこぼれ落ちた赤い血に思わず瞳を閉じる。
気持ち悪くなる胸に鼓動を刻む心臓。
そして追い打ちをかけるかのように閉じた視界にうつったのは白い手だった。
開こうとするその拳だったが、その前で瞳を開いた。
「い、いやっ……」
「どうしたの?」
ミナトの声に返事もせず、足が一歩一歩後ろに下がる。
震える、足が、手が、全部が。
恐い、恐い、恐い、恐いっ…。
―――こっちだ、こっち。
「い、いや…っ!!!」
ミナトの向こう側が黒ずんで見えて、思わずその場から逃げ出した。
早く、早く。
あの黒いものが自分に迫る前に。早く。
ミナトが呼ぶ声がしたが、そのあとすぐに子供の鳴き声が聞こえた。
ただ自分にできることは走ることだけ。
逃げることだけ。
そっちには行きたくない。
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