傍に | ナノ

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「それでこっちが火影亭だよ」

その声に指さした先を見ると、前にやってきたことのある火影亭の姿があった。

一通り終わったようで、何かを考えるようにしたミナトを見つめていると

目があった。

「最後に…あそこかな」

「あそこ?」

一体どこのことだろうかと考えていれば、ふいにミナトの姿が消えた。

その瞬間に自分の身体が持ち上げられていることに気づく。

抱き上げられた事に瞬きしていると、ミナトの声が聞こえた。

「随分軽いね」

「……、」

何も答えずにいると、苦笑したミナト。

少し膝をかがめて伸ばすと同時に視界は揺らいだ。

「っ、」

浮遊感といつのまにか里にある家の屋根が見える高さまで上がってきていた。

木をぐんぐんと登っていくミナトと浮遊感に思わずミナトが回していた腕の袖を握った。

それに気づいたのか、大きく飛んだ時ミナトの視線は下がると、その青い瞳は細まった

「恐かった?そっか」

なんだか穏やかに笑ったその表情に疑問を抱いていると、ミナトは腕の力を強くした、

「大丈夫、落としたりしないよ!」

それと同時にスタっと綺麗な音がした。さっきまでの浮遊感はもうなく。

ミナトの足はしっかりと地面についていた。

そしてゆっくりと下ろされると同時に顔を上げると、そこには見たことのない景色があった

「里から火影様顔岩が見えたよね、今その上にいるんだ」

じゃあ今自分はあの顔岩の上に立って、里を見下ろしているんだ。

見たことのない里の景色は広がり、光に照らされるこの里はとても輝いて見えた。

喉まででかかった言葉があったが、シカクのことを思い出し、それを止めた。

それに気がついたのか、ミナトは私を見つめた。

「綺麗だとは…思わない、かな?」

「…綺麗、だよ」

それに小さな声で返したが、ミナトは笑顔を向けなかった。

綺麗。さっきその言葉が自然とでかかった。

でもそれを口に出すことをやめた。

私の思ったことを口に出せば、シカクのように変な顔をされてしまうかもしれない。

「さっき君が見せた顔は、君の素のような気がするんだ」

さっき、とはいつだろう。と思うよりも先に頭に自分が港の袖を握った時の映像が浮かんだ。

自分の素。それが自分でも分からない。

自分はどのように話して、どんな風に笑っていたんだろう。

「私、本当の自分が分からない。」

あの時響いた声。

思いだせと言われた、本当の自分を。

でもそれは、知ってはいけない事実のように黒く染まっているかもしれない。

もしかしたらそれを知れば死にたくなるのかもしれない。

そんな考えが交じり合って、ぐちゃぐちゃになって。

背筋を凍らせる。

なんて言うんだろう、この感情は。

そう思った時、すんなり胸に響いた声は私の口を動かした。

「…自分を知るのが、恐い」

自然に出た言葉に、ミナトは見開いた、

そして自分も目を見開いた。恐い、と言った。

私は恐いんだ自分を知るのが、真実を知るのが。

「ごめん。」

「…、」

急に頭を下げたミナトに驚くと、ミナトの声が聞こえた。

「俺は、君を疑ってた、里を脅かす存在かもしれないと。

でも君は、誰よりも怯えていた。一人で」

“一人で”

「…私を疑うのは、仕方がないことだよ」

それに小さく頭を横に振ったミナトは笑った。

「俺は信じることにする。君を、だから名前を思い出したら教えてくれないか?」

その言葉に自然と身体を釣り上げていた糸が一本、切れた気がした。

頬が自然と緩んだ、なんだか優しい気持ちになれた。

ミナトを見ると面食らったような顔をしてたので、瞳を細めると、

ミナトもまた苦笑した。


「君の笑顔は、すごく綺麗だ」


笑う声と一緒に聞こえた言葉は、

なんだか胸を緩ませた。









 

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