16歳 | ナノ

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暗い世界を照らしていた月は怪しく輝いていた。

薄暗い道を一人歩く、男は怪しい月を見つめていた。

そして視線は落ちると、彼岸花が咲いている所を見つめる

何かを探すような視線がやっと捕らえたのは、赤い姿をした少女だった。


「…また、会えたね……」

男は嬉しそうに頬を緩めたが、少女は笑顔を見せない。

端麗な顔だったが、人間とはかけ離れた姿だった。

赤い髪、尖っている耳、白い肌に描かれた紋章。そして何より目立つのは、真紅の瞳だった。

男は引き込まれるように少女の瞳に飲まれていく。

高鳴る男の鼓動と共に、足が動いた。

「名前だけでもいいから、教えてくれるかい」

「人間に教える名などないわ」

静かに少女の声は放たれたが、声色は低かった。

「……君は僕に、心を開いてくれないんだね」

少女はそれに苦笑した、微笑みを作って男を見ると、真紅の瞳を輝かせる。

「…貴方、なぜ毎晩ここにくるの」

「君に、会いたかったから」

迷わず答えた男の瞳は真剣だった、月に照らされて輝く男の姿に

眩しそうに少女は瞳を細めたが、小さく笑う。

「僕は、君が好きなんだ」

まだ、若い男だった。愛だと恋だの、まだそれほど知らなそうな男。

だからこそ純粋な想いを少女にぶつけていた。

たとえ少女が人間ではなくても、男は少女を愛せる自信があった。

「私、その言葉嫌いなの、そんな言葉で、私を縛って…感情を押し付ける」

ため息を零した少女に近づこうとした男の前に彼岸花が落ちる。

静かに地面に落ちた彼岸花を見て、男は顔を歪めた。

ありえないからだ、空から彼岸花が落ちてくるはずなどない、

「優しい人も、いたのにな…貴方みたいな優しそうな人、でもみんな最後はおんなじだったよ……私を縛ろうとした」

「僕はそんなことしない!」

強く放たれた言葉だったが、少女の瞳を見た瞬間、身体の動きが止まる。

「(な、なんだ…?)」

動かなくなった身体、ぴくりとも動けない男の瞳は見開かれる。

「…もう、信じられないの」

少女の唇が弧を描くと、男の視界は真っ赤に染まる。

赤い炎だった、男を囲む炎は消える気配などない、男にまとわりついて

黒くなるまで消えはしなかった。

「……赤い悪魔、そう呼ばれるだけある」

「サタン、その呼び方はやめてよ」

少女のすぐ後ろにいたのはサタンだった、人間の姿をしたサタンは笑うと少女の腕をひいた。

抱きしめられた少女は微笑むと、瞳を閉じた。

「あーあ、ここの彼岸花が好きだったのに…また別の場所を探そう」

赤い炎が彼岸花に移って燃えてしまっていた、枯れ果てた彼岸花を見たサタンは瞳を細める。

「また人間を殺したのか」

それは切なげに似た声色だった、















懐かしい思い出だった、あれから随分と時はたったようだった。

私はサタンから離れて、何をしていたんだろうか。

記憶がハッキリしない。いつのまにかメフィストの元にいた自分だったが。

混乱はしなかった。

NO NAMEは学園の塔の上に立っていた、吐き出された息が風に流れる。

「貴方は、どこにいるの…?」

サタン、サタン、サタン。

想う胸が苦しげに泣いている、なぜ。

「そういえば、」

NO NAMEの脳内に青い炎を使う青年の姿が過ぎる。

「(確か燐って言ってた)」

燐の炎にNO NAMEは惹かれていた、美しい炎だった。

サタンと同じ炎だった。

NO NAMEは確信していた、彼はサタンの子だと。怒りはそれほどなかったが、

切なくなる胸があった。

「長いこと会ってないから、愛想をつかされたかな」

ふっと笑うと、塔から飛び降りた。



 

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