16歳 | ナノ

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あぁ、塗りつぶされていく。

全ての記憶が、全ての温もりが。

抵抗することなどかなわずに、ただ真っ赤に染まっていく胸。

恐ることはなかった、ただ元にもどるのだ。そう思っているのに、

理解しているのに、中々手の震えは収まらない。

どうして、どうして



ずきずきと痛む頭を抱えながら思う。

あの青い炎の持ち主は誰だっけと。

あの白い手は誰のものだと。


遠い記憶が蘇ってくるような感覚に息を吐いた。











私は歩いた、暖かい春の陽気が漂うその草むらを。

足元には花を咲かせる植物達が顔を覗かせていた。

それに小さく笑いながら、つん、と手でそれをつついてまた微笑む。

しゃがみこみながら花と戯れていると、ふいに足音が聞こえた。

その足音を心待ちにしていた私が振り返ろうとした瞬間に後ろから白い手が伸びてきた。

抱き寄せられた身体に、すぐ後ろにいる彼の存在を確認する。

「NO NAME」

小さく響いた声は胸を高まらせる。

彼に呼ばれる自分の名前は他の誰かが呼ぶより愛おしく感じられる。

大嫌いな自分が、名前が好きになれる。

白い手に触れようと手を上げた瞬間にまた声が響いた。

「触れるな」

「どうして?」

「まだ力の加減があまりできない、」

触れるものは青い炎を出して黒くなる。そう言った彼の言葉を思い出したが、

構わず手に触れた。

「大丈夫だよ、私はその炎を受け入れられる」

何度か彼は私に触れたことがある。

それでも一回も炎は出なかった、炎に包まれてもよかったのだ。

「それに貴方の炎で死ねるのが嬉しい」

その言葉を発した瞬間に彼の腕の力が強まった、同時に後ろから首に埋まる彼の頭。

彼の髪が首に触れて、そこし目を細める。

「死なせない」

はっきりと聞こえたその声に瞳を閉じた、

最初はその声に恐怖を抱いた。でも次第に心地よく聞こえるようになったその声は

私を安らげた。


「一緒に長い時を生きるんだ。死なせは、しない」

「そうだね」

長い時、彼とずっと一緒にいられると思うと死ぬことよりも嬉しい、

そう思える。

彼は今まで出会った者とは違う。

違う者だった。青い炎はそれを証明した。

でも、私も違う者なのだ。

でも私たちは夢を見た、一緒に人間の世界で共存できたらいいと。

彼は言っていたのだ。

“お前は人間が好きなんだ”

羨ましいと思ったことはあるが、好きだとは思ったことはなかった。

なのに妙にしっくりくるその言葉に頷いた。

彼は人間の世界では生きられないと言った。

だから人間の中に入って、ここにいると。いずれは朽ちるであろう人間の身体。

だから二人が共存できる世界になったらいい、

そう思っていた。

「お前は、特別な存在だ」

「…そうなんだ、」

「あぁ、」

ぺろり、と彼の舌が首につたわった。

彼は私を喰いたいと言ったけど、傷つけるようなことは一度もしなかった。

そんな彼を、青い炎をすごく好きになった。


「ねぇ私、貴方を愛してる」


青い炎を、

サタンを。


後ろで彼が小さく笑うのが、分かった。

 

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