16歳 | ナノ

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「どうゆうことです?!」

「バチカン本部も忙しいようで、時間がかかると連絡がありました。」

目の前にいるフェレス卿はいつものようには笑わなかった。

ただ状況は最悪なだけ。今ならこの机を二つに切り裂くこともできるかのように

手の拳に力が入った。

「…じゃあ、NO NAMEの状況は」

「最悪ですね、このままいくと……」

その言葉の先は予想できた、できたからこそ聞きたくはなかった。

それが本当になりそうで、それが真実で。

まるでNO NAMEがここにいることを否定しているように見えて、

胸の中で渦巻く渦は次第に力を増していく。

「彼女は死んでしまいます」

はっきりと聞こえたその言葉に、力なく瞳は閉じられた。

まだ、諦めない。きっと何かあるはずだ。

NO NAMEが死んでしまうなんて、あるわけない。

一礼して部屋を出ていくと、医療室に向かった。厳重にロックがかけられている

その部屋でまるで監禁されているようにベットに横たわる姿を、

じっと見つめた。次第に弱まっていくNO NAMEの身体はもうどうすることもできなかった

今持っているここの医療技術、悪魔の解毒剤。全てを使っても身体の状態は改善されず

脱落した自分を覚えている。

バチカンに検査の資料を送ったが、返事は遅くなるという。

今が大切で重要な時間がどんどん失われていく。

このままだとNO NAMEは消えていってしまう。

「バチカンに連絡した、検査を急げ、ってな」

これで少しはあっちも要求の仕事に手を回すだろう、と呟いた声の主は

昔からよく知った人物だった。シュラさんはこちらをチラっと見ると、

眉間にしわを寄せた。

「……お前、普段からそんな顔してんのか、昔はもっと可愛げがあったけどな」

自分が今、どんな顔をしているのかなんてわからないが、嬉しい気持ちでも舞い上がっている気持ち

でもないことは確かだった。今あるのは緊張感だけが漂う気持ち。

もう後には引けないような任務に来たような時の、あの命懸けの賭けをするような気持ち

「…どんな顔してるんです?」

「そうだなあ…」

少し考えるようにして僕を見つめたシュラさんだったが、すぐに口元がつり上がった。

視線の先にはNO NAMEの姿で、何を言うか待っていると唇が動いた。

「NO NAMEが愛しくて仕方がない、っていう顔」

それに少し目を見開いたが、また少し笑ってNO NAMEの手を握った。

冷たいその手を覆うようにして握ったその手は前とまったく変わっていないはずなのに

ひどく小さく細く感じた。

「当たり前です、ただでさえこんな状況なのに。それに…大切な家族です」

「……家族、ねぇ」

小さい頃、転んでばかりの僕に手を指し伸ばしてくれたのはNO NAMEだった。

自分だってたくさん転んで、たくさん怪我をして、ぼろぼろのはずなのに。

その小さな手をさし伸ばしてくれた。

僕らは一緒に進んできたんだ、前を歩く兄さんを見つめながら、必死に追いつこうと

努力してきた。

あの時握った手は暖かかった。強かった。

なのに今のNO NAMEの手は、ひどく冷たくて、簡単に朽ちてしまいそうな手。

力を入れれば、ボロボロに崩れてしまいそうで…。

いつから僕らは違っていたのだろう。一緒に歩んだ道を間違えたのだろうか。

「NO NAMEは死なせないさ、獅郎が大切に育てた娘だ」

「はい、」

そうだ、僕は自分から一緒に歩むことを止めたんだ。

一緒に進むのではなく、前に歩いて、君を受け止めてあげられるように。

僕がNO NAMEを守れるように、



『雪男、転ぶのはもう嫌か?』

『嫌だよ…痛いもん、それにNO NAMEも一緒に転んじゃうんだ』

『だったらお前が守ってやればいい、受け止めてやればいい』

『どうやって?』

『強く、なればいい』




小さい頃から気づいていた、NO NAMEが年を重ねるごとに何かが違ってきていることを

それは“16歳”という力の弱まりでもあって。

いつか、それがなくなったときに僕がちゃんと守れるように、

そう思っていたのに、突然なくなってしまったあの力の影響は思ったより

重くて、辛かった。



それでも僕は前を歩もう。

君が転ばないように、絶対に、絶対に失ったりなんかしない。



どんな方法を使ったとしても。



 

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