笑みをこぼす | ナノ

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あーお腹すいたなぁ…。

パンにジャムつけて…そうだなぁクロワッサンも食べたいなぁ…

そう思いながら重たい瞳を開けるとそこには見慣れない天井があった。

「……え、」

それに勢いよく体を起き上がらせると、自分の周りをゆっくりと見回した。

「どこ、ここ…」

知らない和式の部屋に自分は寝かされていたようで、

記憶があやふやなことに気づく。

確か…青年に助けられて…それで、

ここは、現代じゃないんだ………。

それを思い出した瞬間にきゅうと胸が締め付けられるように、

不安な気持ちがよみがえった。

「あら、起きたかしら」

高い声が聞こえたと同時に横の襖がゆっくと開くと、そこには女の人の姿があった。

目が合うと、瞳を細めて穏やかに笑う女性に、浮かんだ笑顔。

あれ…なんだか雰囲気があの青年に似ていることに気づく。

「もう体は平気なの?」

「え、あ…あの、」

「あぁ、ここは私の家なんだけど利吉が貴方を連れてくた時はびっくりしたわぁ」

「え、利吉……?」

利吉って誰ですか?!疑問そうな顔を浮かべていると女性は柔らかく微笑んだ。

「あらあの子ったら自分の名前も教えてないなんて、貴方と森であった男の事よ、私の息子なの」

「そ、そうでしたか…すいませんっ、記憶があやふやなもので…」

あの人…利吉さんって言うんだ。親子なら似てるの当たり前だよね。

「そうなの、で体調は大丈夫?倒れた、って聞いたけれど」

その言葉に自分が倒れたことにようやく気づく。

利吉さんは私を自分の家まで連れてきてくれたの…?

「大丈夫です…ありがとうございました」

深く頭を下げると、にっこり微笑んで良かった、と言った利吉さんのお母さんは

近くでした物音に気づくと、笑いながら口を開いた。

「息子が帰ってきたわ、多分ここに来ると思うけど、ほら」

足音が近くまで聞こえてくると、利吉さんのお母さんは立ち上がって部屋を出ていこうと襖を開いた。

「利吉、お嬢さん起きたわよ」

そう言って出ていった姿に頭を下げた。

「もう大丈夫かな」

部屋に入るのと同時に聞こえた声に顔を上げると、そこには利吉さんの姿があった。

「あの、すいません…ご迷惑をおかけしてしまって」

「気にしなくていいよ」

畳の上に座った利吉さんに再度頭を下げると、利吉さんの声が聞こえた。

「起きたばかりだけど、質問してもいいかな?」

「はい、」

少し鋭くなった声に背筋がはる、緊張感のある空間に瞬きをしていると口は開いた。

「君は一体何者だい、」

その言葉に一瞬身体が震えたような気がした。

それにおそるおそる口を開く。

「あの…信じてもらえるかわからないんですが、私はこの時代の人間じゃないと思います…」

「…え?」

「私、時代を訪ねましたよね、今は室町時代って教えてもらいましたけど、私のいた所はその室町から600年後の平成という時代なんです」

それに瞬きをしていた利吉さんは一度息を吸うと、まだ鋭い言葉を向けられた。

「それを…信じる証拠は」

「証拠、ですか…」

確かバックを持っていたはず、何か現代のものがあれば…

あたりをみまわすと、自分のバックが置いてあることに気づき、

中身を開けて、まず視界に入ったケータイを取り出した。

「それは?」

「これはっ携帯と言って電波で人と会話できるものです!」

「人と会話…?」

「はいっ、遠く離れていてもこれをもった人と話ることでできます…あぁ、でもここじゃ県外だ…」

どうしようと、迷っていたらウォークマンの存在にも気づく。

取り出して、イヤホンを差し出せば利吉さんは疑問を浮かべた。

「あ、耳にはめてください」

イヤホンをつけた利吉さんを確認すると、小さい音から音楽を鳴らす。

「っ…え?!」

それに驚いた利吉さんはイヤホンを外すと私を見た。

「なんだいこれ?!音が聞こえるし、人が不思議な歌を歌っている…」

「これは現代のもので、この小さな機械に音楽を入れていつでもこれを聞くことができるものなんですっ…今の時代そんなものはありませんよね…?!」

それに利吉さんは息を吐くと、イヤホンを返してくれた。

「うん、信じがたいことだけれど…君の言っていることは嘘じゃなさそうだ」

「あ、ありがとうございますっ」

その言葉に一気に安心感が溢れた。

信じてもらえた、それだけで良かった。

良かった……、

「君の名前は?」

「NO NAMENO NAMEですっ」


   

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