笑みをこぼす | ナノ
01033/3
「とりあえずここで、」
青年がそう言葉を放った時、身体がゆっくりと動くと地面に足をつけさせてくれた。
まだ森の中のようだが、すぐ近くには人気のありそうな道が見えた。
「あの、ありがとうございます…」
すぐに目の前の青年に頭を下げると、また優しそうな声が聞こえてきた。
「私も偶然通りかかったところだったから気にしないで」
そう瞳を細めた青年の笑顔はすごく爽やかで胸が高鳴った。
でもこの人の格好なんか…現代的ではない。
袴を履いているように見える…甚平?違うなぁ…。
ふと青年の顔を見上げると、青年も私を下から上までじーっと見つめていて、
首をかしげていた。
「不思議な…格好だね…」
少しさっきより鋭くなったような声に多少びっくりしながらも、
私も自分の考えを口にすることにした。
「いや…あの、私も貴方の格好は見慣れないというか…」
「私の…?普通だと思うけど、もしかして南蛮の服かな?」
「…南蛮、ですか…?」
その言葉はたしか歴史の授業で耳にしたことあるような気がする。
っていうかやっぱりなんかおかしい、さっきからすぐ近くの道を通る人たちの服装も
昔のものというか…なんというか、違う。
まさか…だとは思いますけど。
「あの…今時代は間違いなく平成ですよね!?」
その言葉を当たり前じゃないか、そう言ってほしかったがめの前の青年は顔を歪めた
「平成…?今は室町時代だよ」
「室町…っ…?!」
なんだか気を失いそう、ってか意識が飛びそう。
この人の話は信じられる、てか信じるしかない。だったらさっきのコスプレ集団なんか
じゃなく本物…?!あっぶない。本当に危ない。忍者とか…だよね…。
殺されなくて良かった…っ…!!!
てか本当にクラクラする…
「どうかした?って、危ない!」
力が抜けた足はガクン、と落ちて倒れていく体を青年が支えてくれた。
だんだんと遠くなる意識の中、必死に考えていたこと。
「こ…れから、どうしよう…、」
ぐるぐる回る頭が思考を停止する頃には瞳は閉じられていた。
そして私は意識を手放した。
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