笑みをこぼす | ナノ

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「とりあえずここで、」

青年がそう言葉を放った時、身体がゆっくりと動くと地面に足をつけさせてくれた。

まだ森の中のようだが、すぐ近くには人気のありそうな道が見えた。

「あの、ありがとうございます…」

すぐに目の前の青年に頭を下げると、また優しそうな声が聞こえてきた。

「私も偶然通りかかったところだったから気にしないで」

そう瞳を細めた青年の笑顔はすごく爽やかで胸が高鳴った。

でもこの人の格好なんか…現代的ではない。

袴を履いているように見える…甚平?違うなぁ…。

ふと青年の顔を見上げると、青年も私を下から上までじーっと見つめていて、

首をかしげていた。

「不思議な…格好だね…」

少しさっきより鋭くなったような声に多少びっくりしながらも、

私も自分の考えを口にすることにした。

「いや…あの、私も貴方の格好は見慣れないというか…」

「私の…?普通だと思うけど、もしかして南蛮の服かな?」

「…南蛮、ですか…?」

その言葉はたしか歴史の授業で耳にしたことあるような気がする。

っていうかやっぱりなんかおかしい、さっきからすぐ近くの道を通る人たちの服装も

昔のものというか…なんというか、違う。

まさか…だとは思いますけど。

「あの…今時代は間違いなく平成ですよね!?」

その言葉を当たり前じゃないか、そう言ってほしかったがめの前の青年は顔を歪めた

「平成…?今は室町時代だよ」

「室町…っ…?!」

なんだか気を失いそう、ってか意識が飛びそう。

この人の話は信じられる、てか信じるしかない。だったらさっきのコスプレ集団なんか

じゃなく本物…?!あっぶない。本当に危ない。忍者とか…だよね…。

殺されなくて良かった…っ…!!!

てか本当にクラクラする…

「どうかした?って、危ない!」

力が抜けた足はガクン、と落ちて倒れていく体を青年が支えてくれた。

だんだんと遠くなる意識の中、必死に考えていたこと。

「こ…れから、どうしよう…、」

ぐるぐる回る頭が思考を停止する頃には瞳は閉じられていた。

そして私は意識を手放した。




   

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