息を止めるの | ナノ
00211/1
「…トウヤはNO NAMEの居場所は知らないの?」
カザルムの王獣舎の中、エリンは扉にもたれているトウヤに向かって話しかける。
ゆっくりと視線を上げたトウヤは小さく笑って顔を傾けた。
「知らないな」
「旅に出る…、真王陛下の使者から逃れたいのはわかるわ…でも、一人でなんて」
「あいつが決めたことだ」
トウヤは王獣舎から外を眺める、広がる景色に瞳を細めて今は近くにいない妹を想う。
「それに俺たちはもう自由なんだ」
その言葉にエリンは顔を歪めた。そしてトウヤに近づくと、小さく口を開く。
「じゃあ、貴方はなぜNO NAMEと行かなかったの?」
トウヤとNO NAMEにくだされた命令。
NO NAMEのようなトウヤには逃げることだってできたはずだった。
エリンの思いは、トウヤがエリンの護衛についた頃から変わらず揺らいでいた。
「あの子と、一緒に行けばよかったのに…貴方だって自由なんでしょう」
トウヤは瞳を瞬きさせると、小さく息を吐く。
その動作にエリンは頭を傾けた、静かな王獣舎の中、三頭の王獣も眠り、寝息が聞こえる中、エリンの瞳をトウヤは見た。
交差した視界の中、トウヤの瞳が細まって、その表情は和らいでいた。
「俺はあんたを見守っていたいと思ったから」
時がとまったような感覚だった、エリンの中の想いが破裂するかのように、
身体中が熱くなる。
「…妹の言った通りだ、王獣と共に生きるあんたを、守れればそれでいい」
「…っ…トウヤ」
エリンは腕を組むトウヤの手を掴んで、自分と重ねれば、火照っているであろう自分の頬に寄せた。
それに反発せずトウヤは瞳を閉じて、暖かい感覚を感じる。
「私は…」
「言うなよ、」
エリンが言葉を続けようとしたのをトウヤは止める、
掴まれていた手を離せば、トウヤは自分の顔を手で被って、息を大きく吐き出した。
「どうしてだ、」
「…、」
トウヤの放つ言葉は戸惑いと切なさと、火照った想いが混ざっているような言葉だった
エリンはそらすことなく、そんなトウヤを見つめる。
「見守ると決めているのに…どうして」
「…トウヤ、」
エリンに伸ばされた腕はエリンの頬に触れると、ゆっくりとエリンの背中に回ってエリンを抱きしめた。
エリンの耳に触れるトウヤの熱い息はエリンの体も熱くさせる。
「どうしてこんなにあんたが欲しいんだろう」
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