息を止めるの | ナノ

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「イアル、王宮をうろつく奴らの存在には気づいているだろ」

「ああ、」

王宮にいる堅き盾達が次々と止めさせられ、新しく真王陛下を守る兵ができてきている。

王宮をうろつく彼らは、仮面を被っていた。

あの時、真王陛下を襲ったもの達と同じに。

「あ、NO NAME」

カイルの声に顔を上げると、目の前を通り過ぎようとした新しく真王陛下の護衛についたアルタカの民、カザルムの警備員であったNO NAMEの姿があった。

カイルの声とイアルに気づいたNO NAMEは小さく笑うと、近づいてくる。

「カイル、イアルさん」

「セィミヤ様はどうした?」

「お疲れのようだったから、今は眠っているよ」

微笑むNO NAMEの瞳が細くなる、赤い瞳が細くなる。

その度にイアルの心臓が揺らいだ、言葉にならない気持ちがから回る。

まだ慣れないNO NAMEの被り物をとった姿にイアルは落ち着くようにふっと息を吐いた。

「貴方は眠らないのか」

「私は、真王陛下の護衛だから」

セィミヤ様は護衛についたばかりのNO NAMEに随分と心を許しているようにみえた。

「少しは休んだらどうだ」

イアルの言葉にNO NAMEは微笑んだが、一瞬にして、目付きが変わる。

NO NAMEの表情が強ばった、赤い瞳の中が燃えるように輝いている。

「…どうした、NO NAME」

カイルの低い声と共に、後ろからぞろぞろとやってくる人の気配に振り返ると

そこには仮面の男達の姿があった。

「落ち着けよ、NO NAME…ここではまずいぞ」

「どうゆうことだ、カイル」

「アルタカの民を襲ったのはあの仮面の男達らしいんだよ」

カイルの言葉にイアルは目を見開いた。同時に脳内に浮かぶのは、トウヤの姿。

「……切り裂いてやりたい、」

細く高い声なのに、ひどく背中を震わせる声。

ガラスにヒビが入るような威圧感を感じる、ビリビリとした空気をまとっているようだった。


NO NAMEの手が懐の剣に伸びたが、引き抜くことはなく、ただ剣を掴んでいた。

今すぐ剣を抜こうとする手を抑えるように手は震えていた。

「…最近、あいつらを見かけることが多くて…困ってるんですよ」

苦笑いを浮かべたNO NAMEだったが、イアルとカイルの表情は揺らがなかった。

男たちの姿が消えると、さっきまでの空気が嘘だったかのように軽くなる。

「まったく、アルタカの民ってのは恐ろしいな…」

笑いながらカイルは言う、NO NAMEはゆっくりと息を吐くと瞳を細めた。

「…この国は変です、わざわざ前真王陛下を襲った者を招き入れるはずがない」

「……ああ。」

NO NAMEの強い視線を見つめながらイアルは頷いた。

同時に自分の中にあった弱い思いが、本物になったように、

胸が引き締まる。



「(俺は、こんなことをしていていいわけがない)」


一人の少女が、民の仇を取ることを抑えている、

それは大切な者のため。

柔らかく笑う少女が幸せになれないのは、なぜだ。


俺は、なにをしている。










   

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