息を止めるの | ナノ

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「・・・俺に殺される覚悟はできているか」

目の前で彼女と同じ赤い髪を揺らして、底光りする真紅の瞳をこちらに向けて、殺気立つトウヤを見つめ返せば、息を吸い込んだ。あの子が生まれる前にトウヤには伝えておかなければならないとずっと思っていた。カザルムへやってきて、学舎に訪れるまで伝えたかった言葉は簡単には伝えられなかったが、やっと全部話し終えたかと思えば、やはり想像していたトウヤの反応が帰ってきた。

「・・・あの子のために、殺される気はない。」

自然と頭に浮かんでいた言葉を口に出せば、殴られるだろうかなんて考える。殴られてもいい、どうしたって自分の考えは変わらない。俺は彼女とあの子と一緒に、ずっと一緒にいる。

トウヤは少し瞳を瞬きすると、声をあげて笑い出した。

「そう言うと思っていた!!別に俺は怒ってない、むしろ良かったと思っている」

「・・・、」

「本当だよ、イアル。お前があいつと一緒になってくれて良かった・・・本当に」

トウヤはやはり兄で、どうしようもなく彼女と血が繋がっていると思う。きっと彼女の状態に気づいていた、アルタカの民でなくなった彼女が未だにその影を引きずっていたことにも。

「妹に会わせてくれ」

その言葉に深く頷くと、部屋の扉が勢いよく開く。飛び出してきた真紅の髪に目を見開く。それはトウヤのものでもなく、ここにはいない彼女のものでもない、何者かの髪、真紅の髪を持つ小さな子を抱き上げたトウヤは、その子を愛おしそうに見つめる。

「歩き回れるようになってからは、毎日が大変なんだよ」

トウヤに元気よく抱きついたその子供はまだ幼く言葉を話せないような年齢で、その顔つきはどことなくトウヤに似ているような気がした。そしてこちらに視線の向いた瞳は真紅色に輝いている。

「その子は」

「エリンと俺の子だ、」

エリンも一緒に行かせれば安心だろう、と笑うトウヤに深く息を吐き出した。確かに出産を経験しているエリンが一緒に来てくれたら心強い、だがそれ以上に、知らないあいだに発展していた二人の関係に驚きを隠せない。どことなく気の合うような二人だったのはあの時感づいていたが、トウヤの反発するような態度が深く根付いていて、予想がつかなかった。


「俺も、最初はよくわからなかったよ」


そう言って笑うトウヤはもう、随分と成長したように見えて。

俺もあんな顔できるようになるだろうか



   

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