息を止めるの | ナノ
00511/2
「やっぱりな、そうだと思った」
「あはは・・・」
傷が癒えてから月日がたった。想いを通わせて、イアルさんの家に留まっていたが、カイルの訪問により事態は急変。
イアルさんが仕事で外に出ていった時だったので、どうしようかと扉の前で戸惑っていたのに、カイルが無理やり扉を開けたので、重い身体が思わず揺らいだ。
驚いていたカイルだったけれど、私の姿を見て、何も言わずに私を支えて椅子に座らせてくれた。
ここへ訪ねてきた理由も何も言わないカイルに、自分からここにいる理由も言えるはずもなく、沈黙だけが部屋を支配している。
だが先にその空気を壊したのはカイルだった、深いため息混じりの唸り声。
びっくりして視線を向ければ、少し笑うカイル
「してやられた。遠慮なんてすんじゃなかった」
「・・・なんのこと」
「・・・・・・さて、なんのことかな」
カイルはふう、と息を吐き出してなんだか切なそうに瞳を細めた。そうだ、お茶を出そうと立ち上がったが、カイルがそれを止める。
「いい、大丈夫だ。あんまり動かない方がいいんだろう?」
「・・・うん、そうだけど」
大きなお腹を抱えている私にカイルは小さく笑うと私をまた椅子に座らせた
「まさか、な・・・子供までできてるなんて」
「・・・その、」
あれからたくさん時が過ぎて、色々あった。嬉しいことも悲しいことも、でも子供ができたとわかったとき、全てが幸せに変わった。
なんだろう、この感覚、すごくね・・・嬉しいんだ。
「・・・幸せそうな顔だな」
「うん、すごく・・・こんな思いできると思ってなかったから・・・すごく嬉しいの・・・」
「へぇ、」
「どっちに顔が似てるのかなあ、とか・・・どんな顔して笑うのかなって」
考えるだけで、胸がいっぱいになりそう。早く、早く会いたい。
「・・・すごく、すごく嬉しいの」
「・・・そう、か」
カイルの顔つきに高まった感情が引き釣り下ろされる。その悲しそうな表情に言葉を失う。
「悪い、今日は帰る・・・イアルによろしく言っておいてくれ」
出て行ってしまったカイルの後を追えないまま、その場で空気を吸い込んだ。
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