息を止めるの | ナノ

0041
1/1



私は旅をしていた。

真王陛下の護衛につくことを命じられていた、が自分は自由に生きたかった。

陛下の使者から逃れるために旅をすることにした。

見たことのない世界を見ることが楽しかった。

「色々な街や村を見て楽しかったです」

楽しげな人々に、夜に行われるお祭り。楽しいことばかりだった

でも同時に少し切なくなる胸もあった

「でも一人は少し寂しかったですね」

小さく笑うと、イアルさんの微笑みが返ってくる

なんだかそれを見るとひどく胸が苦しくなった。

「何度か森にいって野生の王獣や頭蛇達に挑んでました」

野生の王獣達と戦うことは楽しかった、五感全てを研ぎ澄ませて戦うことが

とても気持ちが良かった。

だがそんな森にまでついてきたのは、私を狙う男たちだった

「・・・よく、知らないんですけど。アルタカの民は珍しいから、私を捕まえにきたらしくて」

イアルさんの瞳が細まる。

でも人間など敵ではなかった。だが、私を観察していた男たちは、ある日小さな王獣の子供を人質にとった。

許せなかった、なぜ、そんな真似をするのか。全員殺してしまいたい、そんな感覚に襲われたが、なんとかこらえて、地面に踏みとどまる

そんな私のすきをついて、銀色の冷たい刃が私を貫いた

“こいつは簡単には死なないんだから、大丈夫”

そういって汚く笑う男ども、今でも頭をかすめる映像だ。


「それで、ここまで逃げてきたのか・・・?その傷で?」

「案外近くの森にいたんですよ」

「それでも、怪我をしていたんだろう?!」

イアルさんの低くて大きな声が鼓膜を揺らす、思わず目を見開いてしまった

声の出ない私に、イアルさんは息を吐き出して、瞳を細める

「すまない、」

「いえ・・・」

重い空気が漂った、沈黙だけが過ぎて言ってただただ部屋の中が重たくなっていく

「・・・一人の旅は危険なんじゃないか」

言いたいことはなんだか分かった、旅をやめろ。そう言っていると分かっている

でも、はっきりしない遠まわしな言葉に、なんだか胸の奥から言葉が湧き上がってくる

「なんでですか、私は大丈夫です」

「実際に怪我しているだろ」

「私はアルタカの民です!!!」

旅をしていて常にひかかっていたこと、うまく言えないし

整理できない感情。

「NO NAME、」

自然に瞳に涙が溜まっていることが自分でも分かった。なんでだろう

なんで涙を流すのだろう。どうして自分は今、泣きたいんだろう。

「・・・・・・ごめんなさい」

腕に落ちた涙のつぶが視界をかすめる。

イアルさんの手が頬を撫でて涙を拭う。

「・・・私、アルタカの民じゃないです・・・・・・自由になれたんです」

「・・・うん」

イアルさんの瞳がしっかりと私を見つめて、頷いてくれた

そうだ、私はもうアルタカの民じゃない。

「・・・・・・なのに、必死にまたアルタカの民になろうとしていた」

森へ行ったのも、王獣と戦ったのも、男たちを殺してしまいたい、と思ったのも

全部、心にまだ残っているアルタカの民という自覚を、消せずにいたから

自然と身体はアルタカの民に戻ろうとしていたから

「・・・でも私は・・・・・・っ、普通に生きたくてっ」

だから一人が寂しかった

唇をぎゅっと噛み締めたとき、イアルさんの腕が伸びる

イアルさんの腕の中に収まった私。鼓動が聞こえてしまいそうで怖くなる

「・・・イアルさん」

何も答えてはくれないイアルさんの名前を何度も囁けば、唇が塞がれた

それはイアルさんの柔らかい唇で、熱を持っているように熱い

驚きを隠せずにいると、それは離されて、顔を下に下げたイアルさんが声を発した

「・・・・・・一人で、抱え込まないでくれ。俺は・・・君に頼って欲しいんだ」

「・・・はい、そうします。」

顔を上げないイアルさんに、少し笑いを交えて答えれば、ぐんっとイアルさんの顔が上がった

頬が赤くなって、細まった瞳に捉えられる

「その・・・、すまない」

言いたいことは分かっていた、長い間隠していた気持ちももう表に出ていて

なんだか素直になれる。この気持ちをイアルさんは受け止めてくれるだろうか

「・・・私、イアルさんと一緒に生きたいです」

少し驚いたように、でも照れくさそうに微笑んだイアルさんの優しい微笑みが

すごく心地よい

返事の変わりに再び、唇が重なった

傷が疼いていたのは、秘密にしておこう



     

[しおりを挟む]
  back  home


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -