息を止めるの | ナノ
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「…、」
毎日、毎日息を吐く。何かが足りない人生に、イアルは瞳を細めた。
物差しになってからもそれは変わらなかった、その理由は分かっていた。
家の中の椅子の上で瞳を閉じたイアルの耳に、扉をたたく音が聞こえた。
「俺だ」
小さく聞こえた声は、イアルの瞳を開かせる。その声は懐かしい友人の声だった。
扉を開ければ、変わらない姿が目に入って、思わず笑みを零した。
「久しぶりだなイアル」
「ああ、」
中へ招き入れようとしたが、カイルは瞳を細めたのでイアルは眉を寄せた。
何かいいたげな表情、口がゆっくりと開かれる。
「一昨日NO NAMEに会ってきた」
その言葉はイアルの身体の血を逆流させるように、騒がせた。
そしてカイルは続けて、自分が行ってきた森のことを話す。
「気になるなら会いにいったらどうだ」
「…、」
何も言わないイアルにたいしてカイルはため息をつくと、瞳を強く開いた。
「まさか、気づいていないわけじゃないよな」
「なんのことだ」
「…どうもお前はこうゆうことにたいして鈍いみたいだな」
鈍いわけじゃない、分かっていた。何か足らない毎日、
理由は分かっていたが、行動できない。自分を動かす力が足りない。
戸惑っていたのだ、どうしたらいいか分からずに。
「旅をしているみたいだ、あの髪じゃ目立つだろうにあいつ隠すことを止めたんだよ」
―隠すことを、やめた
その言葉はイアルの胸の中の糸を切った、そしてイアルはカイルに向かって小さく笑った。
「そうか」
「本当に分かっているのか?俺は会いに行ったらどうかと言っているんだが」
納得できなさそうなカイルの表情にイアルは小さく瞳を閉じた。
まだ整理できていない。
何が正しくて、何が悪いことなのかも今はなんだかあやふやだった。
何かが足りない毎日がこんなにも苦しいなんて。
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