息を止めるの | ナノ
21022/6
「シュナン様!早くお乗りください!!!」
「君たちは…?その、赤い髪は、」
王獣から降りると、シュナンの腕を掴んで、王獣へと乗り込ませる。
戸惑うシュナンだったが、セィミヤの名前を呼べば、小さく頷いて、王獣に乗り込んだ。
「君たちも早く乗って!!」
それにNO NAMEとトウヤは首を振ると、小さく笑う。
「王獣に三人は乗れません、早く行ってください」
「それでは君たちは…っ、」
だんだんと迫り来る、頭蛇の群れにまぎれて、無数の矢も飛び交ってくる。
剣を抜いたNO NAMEはシュナンに向く矢を跳ね返して、もう一度シュナンに視線を向けた。
「さぁリラン、行って!!!」
その言葉が合図のようにリランは高い声を漏らすと、ゆっくりと羽を羽ばたかせ始める。
NO NAMEが上を見上げたその時、NO NAMEの身体が浮遊感に襲われた。
トウヤがNO NAMEを抱き上げていた、そして勢いをつけてNO NAMEを投げ飛ばすと、
飛び立とうとしたリランの上にNO NAMEは落とされる。
すぐさま起き上がてゆっくりと離れ始める地上にいるトウヤを見る。
「トウヤっ何を?!」
トウヤはゆっくりと微笑むと、自らの剣を抜いて、NO NAMEに向けた。
「妹よ、俺は掟が大嫌いだ、なぜ縛られなければならない。もう、自分で自分を縛るのはやめろ、最後まで呪いを背負うのは俺だけで十分だ」
「…違う!!私もアルタカの民だ!!トウヤだけに、そんなもの背負わせないっ!私達はいつも一緒だったでしょう?!」
「ああ、そうだな…だが、お前は民である前に俺の妹だ…妹を守るのが、俺の役目だ」
「っ…」
飛び降りようとしたのをシュナンの腕が止めた。振り返れば歪んだ顔でシュナンは首を振る。
真紅の瞳に涙が溜まった、たとえアルタカの民でも一人で頭蛇に立ち向かえるはずがない。
飛び立つ前のNO NAMEは決意を決めていたが、まさか自分だけ逃れるとは思わなかった。
自分の身代わりのように兄、トウヤが地上にいる。
近づく頭蛇の群れ、涙がポロポロと落ち始める。
「泣くな!お前は、生きろ!!!!!!!!」
――お前は、生きろ…
あの時と同じだ、人の焼ける匂い、頭蛇の気配、動かなくなったたくさんの民。
両親はもう既に焼け死んでいた。
もう一人の兄は私を庇って腹を切られた。
そしてトウヤは無残に死んでいく民の中で懸命に戦っていた、
そして言ったのだ。
―お前は逃げろ、と
自らの剣、私が欲しがっていた剣を差し出して、
―お前は生きろ、と
いつものように優しく微笑みを浮かべて、兄は、私を逃がして、
民は絶滅してしまった。
← →
[しおりを挟む]