息を止めるの | ナノ

2004
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その瞬間、頭蛇の群れの横から飛び出してきたもう一つの頭蛇の群れ。

それはこちらに向かってきた頭蛇達を蹴散らし、食らっていく。

血と悲惨な叫び声が、頭を支配し始める。

「……なんてことッ」

セィミヤの小さな叫びにダミアは笑い声を上げ始めた。

暗く映るその怪しい瞳。

「誰か、シュナンを!!誰か助けて!!」

こちらに向かって走ってきていたシュナン、大公の王子。

シュナンは突然やってきた頭蛇の群れに追われていた。

このままだと彼の命はない。

「…いや、よ!!」

ポロポロと涙を零すセィミヤ、NO NAMEは唇を噛み締めた。

「私が参ります!」

響いた声、エリンのものだった、強い意思を見せるその緑色の瞳。

NO NAMEの瞳が揺らぐ、胸に刺が刺さったように、動けなくなる。

「大切な命、私が救えるのなら」

走り出そうとしたエリンの腕をつかんだのは、紛れも無くNO NAMEだった。

NO NAMEの心は最初から決まっていた。

「エリン、私は、貴方を…」

「NO NAME、もういいの…忠誠も、掟も捨てていいんだよ」

――そうだ、自分で自分を縛っていた

――自分で高い壁を作り、縛り、闇にとりつかれたように人を殺した。

――たとえ憎い相手であろうが、殺した者たちにも家族がいたのだ。

――それでも――、

「私はね、エリン…貴方といられて幸せだった、暖かいものを知ることができた」

「…ッ、」

「貴方は私の命の恩人であり、忠誠を誓う主であり、私の良き友なのです」

NO NAMEの表情には笑顔が浮かんでいた。

その瞳の真紅はきらきらと光って、エリンの瞳をも明るく照らす。

――全て、自分の意思だ


――――私は、最後まで、赤い民でいよう。


――最後まで、誇り高い民として、



NO NAMEは王獣に近づくと、自分に警戒することをやめないリランに視線を向けた。

「誇り高い王獣を、エリンのために力を」

王獣よ、赤い民に力を、

最後の願いを。


どうか、


リランはゆっくりと腰を下ろした、NO NAMEを見つめる瞳は同じく輝いていた。

「ありがとう、リラン」

乗り込もうとした時、腕が握られた。

NO NAMEの瞳が見開く、すぐに分かった、この感覚。


「お前だけに、背負わせるものか」

「トウヤッ」


振り向いた瞬間に見えた赤い髪に赤い瞳、それはNO NAME胸を握りつぶしてしまいそうな思いにさせる。

込上がりそうな涙を必死で抑えながら、NO NAMEは笑った。


「良かった、トウヤ、」

「お前も…、希望が持てたよ、生きることに」

「でも、私達は」

「分かってる、俺たちの運命は変えられない、俺たちは呪われた一族なんだ。戦うことで生きることを許された一族、その存在は世界を真っ赤に染あがる。」

「私たちが生まれたときから、全ては呪われていたんだね」

トウヤは小さく笑うと、NO NAMEの細い手を掴んで包み込んだ。

「だから一緒に、行くんだ…俺たち生き残りも、最後まで誇り高く」

「…うん、それが運命だ」


二人はリランに乗り込むと、ゆっくりと空へと舞い上がっていく。


雲の晴れた空はきらびやかに光っていた。


まだ冷たい空気の中、二人の息が白くなっていく。


地上に見える頭蛇の群れ、二人はお互いの手を強く握り合うと、地上にいるシュナン目掛けて、リランを羽ばたかせた。







お爺様は言っていた。



儚い運命などないのだ

赤い民は呪われている、そう、私たちは存在自体が、呪いなのだ。

いつかわかるだろう、

いつか私たちに天罰が下るのだ。

世界を赤く染めた私たちに、戦うことでしか生きられない私たちに、

私達は精霊と人間の間に生まれたんだよ。

私たち民は皆罰を背負って生きている。

だからこそ誇り高く生きなければならない、それは祖先の過ちだが、

今も変わらず私たちの血がつながっている限り、それは消えない。




これは運命なんだよ





――よくわかるよ、お爺様







   

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